「誰にも見せていないが『パクり』をしてしまう」しかし何ごとも影響と模倣から始まる/カレー沢薫の創作相談
文/カレー沢 薫
誰にも見せていないが「パクり」をしてしまう
私も、就寝前に何かしらエロい作品を見て「よーし今日はこのシチュにまんま推しカプを当てはめて寝るぞ!」という行為をかれこれ30年ぐらいやっているので、別に普通のことだと思います。
もしくは俺とお前が特別異常、ということになりますが、少なくとも一人ではありませんしこのまま二人で地獄に落ちましょう、嫌ならそれをモチベにオリジナルの世界に飛び出してください。
ただ、私はあくまで寝る前の脳内再生であり、それを形にしたことはありません。
例え丸パクリであろうとも、感銘を受けたエロ漫画の顔を全て推しキャラにすげ替えて何作も描いている奴がいたら「こいつ見どころありすぎだな」と一目置かれると思います。
こういうの描きたいと言いながら、手を全く動かさない奴の方が圧倒的に多いのですから、例え模写に近いレベルでも「こういう素敵なものを描きたい」という初期衝動を形にできている時点でエライと思います。
そもそも「他人の作品に影響を受けて描く」ということ自体悪いことではありませんし、大体の創作者が何かの影響を受けて描き始めていると思います。
むしろ何ごともスタートは影響と模倣から始まっているのではないでしょうか。
窓もないカーテンもない部屋で虚空を見つめていた人間が突然立ち上がり「少年が海賊王を目指す絵物語を描くぞ!」と言い出して漫画家になる例は稀であり、大体の漫画家は他人が描いたマンガを読んで漫画家を目指していると思いますし、メッシもサッカーをしている人を見てサッカー選手を志したと思います。
それを「サッカーという文化をパクリやがった」と言って糾弾したら、名選手は生まれませんし、サッカーという文化自体が消滅します。
創作も、誰の影響も受けるな真似もするなと言い出したら逆に新しいオリジナリティあふれる作品が生まれなくなってしまうものです。
それに技術というのは手本がなければ上達しません、どんな神絵師でも最初は見本を見ながら描き始めていると思います。
絵の基本であるデッサンも言い方を変えれば「モデルの丸パクリ」なのです。それを「人体をパクるんじゃねえ」と言い出したら、キャラクターの首寝違え率が60%はアップし、物語どころではなくなってしまうでしょう。
よって、イイと思った作品の設定や構図を真似て描くということ自体はやめなくていいと思います。
明記したり許可をとったりすれば問題はない
しかし、それをそのまま発表するとなると話は別になってきます。
そもそも、人の真似をして描くことがパクリとして糾弾されるのではなく「人様の創作物の盗用をあたかも自分のオリジナルであるかのように発表して利益を得ようとする行為」がパクリとして批判されるのです。
よって、模写やトレスでもその点を明記してある趣味範囲の作品が改めて「パクリだ」と言われることはあまりありません。
もちろん「※トレスです」の一言添えれば、キングダムを70巻分トレスしたものを発表して良いなどという道理はないのですが、それですら権利者の許可を全て取れていればOKなのです。
二次創作自体人様のキャラクターをそのまま使った創作であり、未だに権利者の壮大なお目こぼしで成り立っている部分が多くそこら辺がややこしいのですが、仮に公式が「ガイドラインに沿えば二次創作OK」と声明をだしていたとします。
後はあなたがネタを拝借した方に対し「あなたがお描きになられた御カプの『ライドンタイムでMAXしないと出れない部屋』に大変感銘を受け、つきましては弊カプで同じシチュエーションの作品を制作、発表させていただけないかとお便りいたしました、もちろん発表前に原稿チェックしていただき、元ネタがあなたであることも明記いたします」とメッセージを送り、奇跡的にOKをもらえれば、一応問題は何もなくなります。
推しカプを指名手配犯にしたくない
しかし「こんなものでも人に見てもらいたい」という気持ちの裏には、ただ見てもらいたいだけではなく「自分の作品を褒められたい」という気持ちがあるのではないでしょうか。
作品への賞賛というのはオリジナルであればあるほど独り占めできるものであり、どんなに優れていても二次創作な時点で「元のキャラの魅力ありき」と言われてしまうこともあります。
まして三次創作ともなればよほど良いインスパイアでなければ褒められることはなく、名前変換夢小説の如く違うキャラを当てはめただけとなれば「何がしたいんだ」と思われるだけで、あなたが得たいものは得られないと思います。
だからと言って、人様のネタをそのまま使ったことを隠して発表し、万が一バレずに評価を得てしまったら、それに味を占めてしまい、評価を得るために盗用を繰り返すというモンスターになってしまうかもしれませんし、ずっと「バレたらどうしよう」とびくびくしながら暮らすことになります。
推しカプをそんな指名手配犯みたいにしたくはないでしょう。
どちらにしても、今のままの作品を世に出すべきではなく、出したいならオリジナルだと言えるレベルの作品にしてからの方が良いでしょう。
オリジナルの作品を書くには
全くの無から生み出すのではなく、従来通りスタートは「感銘を受けた作品」からで良いと思います。
創作というのは連想ゲームであり、まずは何かからインスピレーションを得て、そこから自分の想像を膨らまし独自のものを作っていくものです。
あなたも「キャラに違いがあるので展開に違いはある」ということなので、すでに連想はスタートしているのです。
その連想を「このキャラならこうするのでは」「ここでお母さんが入ってきたらどうなるか」など、どんどん広げていきましょう。
その結果遠くに行きすぎて何をしたいのかよくわからない駄作になっているかもしれませんが、少なくとも元ネタは消失して、オリジナル作品にはなっているのではないでしょうか。
そもそも「誰にも見せない自分用」という前提で描いているから模倣丸出しになってしまい、さらに誰にも見せず、誰にも褒められない作品ばかり描いているから余計に「自分のようなパクリ野郎は一生日陰で誰も観ないカビサンドアートでもやってりゃいいんだ」みたいな気分になってしまっているのではないでしょうか。
一度「今から描くものをpixivに載せる」というつもりで書いてみてはどうでしょう。
そうすればパクリ疑惑で炎上したくないのはもちろん「アレに似ている」と言われることさえ死んでも避けようとして、おのずと元ネタからは遠ざかっていくものです。
また活きのいいアイディアというのは調子がいい時に生まれるものなので、とにかく人に見せて義理でもいいから褒められるという経験をした方がいいのです。
ただ、自分の気に入った作品に自分の推しカプを当てはめて誰にも見せず一人で悦に入る、という趣味も別に誰に迷惑をかけているわけでもないので、それで満足ならそのままでも構わないと思います。
現に私はそれで30年やっており、誰にも怒られていないし、飽きる兆しもありません。
私も同士が増えるのは頼もしいので歓迎します、地獄で待ってる。
私は二次創作が趣味なのですが、読んだことがある話を元に創作してしまいます。要はパクりです。小説の8割は人様のお話のネタで書き始めてしまい、もちろん公開なんて出来ません。大抵は別界隈の作品を読みながら、この素敵すぎる話の別カプを読みたい! と書き始めてしまいます。キャラが違うので展開に違いはありますが、台詞や表現が重なるので見比べれば分かります。絵も同じで、好きな絵描きさんに寄せてしまうし構図も人様の絵を参考にするのでやっぱりパクリになってしまいます。
こんなことって他の方はないのでしょうか? 単に私に問題があるのでしょうか。言い訳でしかありませんが、小説の創作を始めた頃はありきたりな話ではありましたがちゃんと自分で書けていたんです。
この状態を変える方法があれば変わりたいです。もう人に見てもらうのは諦めて自分用にかいていればいいのでしょうが、こんなでも人に見てもらいたいと思ってしまいます。