「女体化」とはちょっと違う?間違えたら戦になる「TSF」/カレー沢薫のpixivタグ検隊
文/カレー沢 薫
今回のpixivタグ検隊のテーマに入る前に、まず「女体化」の話をしよう。
文字通り、女じゃないキャラを女として描く創作ジャンルのひとつだ
女体化されるのは主に男が多いが、機械などの無機物を女体化する「擬人化」との合わせ技もある。
女体化は俺たちの妄想だけではなく、公式がやってしまう場合もある。
『おそ松さん』における「じょし松さん」、『NARUTO』のナルトがお色気の術で女の子になるのもある意味、女体化だ。
ちなみに『ザ・キング・オブ・ファイターズ』というゲームに「八神庵」というキャラがいる。
我々、昭和末期世代の中には、彼が異次元に行ったり、蕎麦を打ったりするたびに「庵、変わったな」と言わずにいられない奇病に罹っているものも少なくない。
そんな呪い的存在「八神庵」には「ミスX」という女の姿バージョンがある。
キティさんの次に仕事を選ばないと言われている八神先輩が女になったことがないわけねーだろ、という話である。
しかし、初登場時のミスXは、あくまで身体は男のまま女の格好をした「女装」である。
それが最近、身体も女性化した「女体化」バージョンが登場したのだ。
このように「女装」と「女体化」は全く別ジャンルである。それをたった一人で説明しきってしまう、八神パイセンはすごい、一生ついていくっす、という感じだ。
性転換を扱った創作「TSF」
この「女体化」はあるジャンルの内のひとつ、と言われている。
それが今回のテーマ「TSF」だ。
「TSF」は「Trans Sexual (性転換)Fiction(又はFantasy)」の略であり、性転換を扱った創作の総称である。
昔は「TS」と言われていたが、それだと現実の性転換と混同するため、あくまで創作という「F」が加えられたようだ。
「TSF」は女体化、男体化とは違い、『君の名は。』のように男女の体の入れ替わり、異性への憑依、異性への脳移植なども含む。
「女(男)体化」は、あくまで本人のまま身体が女(男)になったら、という設定であり、別の人間(異性)に乗り移ったりするものは「女(男)体化」とは言わない。
確かに「女体化」タグのついた作品でカップリングの片方が、見知らぬモブ女に憑依するというストーリーはあまりお目にかかったことがない。
それを「女体化」タグ、あまつさえカップリングタグをつけて投稿したら、国ひとつ消滅するぐらいの戦が起こってもおかしくない。
ただでさえ、片方が女体化し身体的には男女カプになっているBLカップリングや、または両方女体化し事実上百合になっていたりと、複雑極まりないことになっている場合もある。
いらぬ混乱と戦を起こさぬように、「TSF」なのか「女体化」なのか、設定の事前共有は必須である。
と、ここまで読んで「男を女に、またはその逆をするぐらいなら、初めから男キャラや女キャラで良いのでは?」という意見もある。
しかし「食い物は最終的に全部ウンコになるのだから、最初からウンコを食えば良くね?」とは思わないだろう。
やはり「TSF」にはTSFならではの良さみがあるのだ。
「TSF」と「女(男)体化」の作品傾向
では実際「TSF」の投稿を見てみると、圧倒的に「R-18」が多い。
確かに、私も「もし1日男になったら何をする?」と聞かれたら、とりあえず男根で出来ること全てをやろうとするとは思う。
それと同じように「性別が変わった? ならばセックスするしかあるまい」となるのは必然のような気もする。ファンタジーなら尚更だ。
しかし「女(男)体化」タグになると必ずしもセクロスではないのだ。
まず、あのキャラが女になったら、というビジュアルの創作を楽しんだり、現パロなどと同じく「もしこのキャラが男だったら」という「if」の想像、また急に性別が変わったら、本人や周りはどうするかという「反応」を楽しむものも多い。
もちろん女(男)体化にも「ならばセックスだ!」というものもなくはないが「TSF」ほどエロありきという感じではない。
つまり、女体化、男体化は、性別が変わるという「シチュエーション」を楽しむニュアンスが強く、「TSF」は、性転換という「プレイ」の一種という印象だ。
ただ、あくまで投稿作品からの印象であり、入れ替わりや乗り移りは別として「TSF」と女体化、男体化の明確な区別はそこまではっきりしていないようなので、どのタグを使うかは書き手次第という感じだ。
どちらにしても公式にない性転換表現がある場合は、いずれかのタグ付けは必須のようである。
ちなみに歴史上の人物の性別を変えた創作も多く、江戸時代にはすでに水滸伝のキャラを女体化した創作が流行っていたらしい。
あまりにも歴史の上の人物の性別転換が当たり前になりすぎて、たまに本物を見ると「ほう、男の織田信長とは珍しい」と感じてしまうほどだ
私の好きなソシャゲ『Fate/Grand Order』にも、男の歴史上の人物が多数女性化して出てくる。
私は女体化好きというほどではなく、推し歴史上人物は出来れば男のままで出て来てくれた方がうれしいという気もするが、最推しの歴史上人物「土方歳三」が男のまま出て来たときは、勢い余って20万円近く使ってしまった。
逆に金銭的には「女体化が多くて助かります」ということかもしれない。
- カレー沢 薫
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1982年生まれ。無職。著作は『クレムリン』(講談社)、『負ける技術』(講談社)、『ブスの本懐』(太田出版)など多数。
趣味はエゴサーチ。