『おじさまと猫』ドラマ化でお願いしたのは「優しさ」。日常の幸福を物語にする秘訣をインタビュー!
週の半ばに、ほっと癒しの時間を……。ペットショップで売れ残っていた猫の「ふくまる」と、妻に先立たれて以来、ふさぎこんでいた「おじさま」との心温まる日々を描いたドラマ『おじさまと猫』が好評です(毎週水曜深夜0時58分よりテレビ東京ほかにて放送中)。
原作マンガは、もともとTwitterで公開され、いまや累計部数170万部突破の人気作品へと成長しました。優しい世界を描く上で心がけていることを、原作者の桜井海先生にインタビューしました。
「私のマンガが、現実の物語になっている!」
── ドラマ化が決まったときの感想を教えてください。
担当編集の堀井です。私は先生の慎重な姿勢と違って、最初から喜びっぱなしでした(笑)。ドラマ化は、本当に先生ご自身の努力と、読者の皆さまの応援の賜物です。
── 「おじさま」こと神田役が草刈正雄さん、ふくまるの声を担当するのが神木隆之介さんと、キャストがすごく豪華ですよね。
── ドラマ版を初めて観たとき、どのように感じましたか?
「私のマンガが、現実の物語になっている!」という感動は大きかったです。登場人物たちのビジュアルや、おじさまの自宅のディテールなど、原作者としても「3次元だとこんな感じなんだ」というのが新鮮で、まさに実写化の醍醐味ですよね。まず読者の方々が応援してくださったおかげでドラマ化が決まり、大勢の関係者の方々のお力によってドラマが作られている。そんなことを考えると、いろんな意味で泣けてきました。
原作者も太鼓判! ドラマ版ふくまるのかわいさ
── ドラマ化にあたって、桜井先生からキャストやスタッフの方々に何かお願いしたことはありますか?
キャストの方々には何もお伝えしていません。自分は漫画家で、役者さんと一緒にお仕事した経験もなく、どうこう言える立場ではないので、「お任せします」というスタンスでした。そのぶん、脚本に関してはスタッフの方々とじっくりお話させていただきました。
スタッフの方々にお願いしたのは、「この作品は優しさを大切にした物語です」ということです。その核の部分さえなぞっていただければ、登場人物のビジュアルやセリフは、3次元に合わせていくらでも調整していただいて構いません。やはりマンガだからこそ違和感なく受け止めることのできる容姿やセリフ回しといったものは存在しますからね。実際、ドラマ版の登場人物たちは原作とばっちり髪形や服装が同じわけではないでしょう? でも、おじさまはおじさまに見えるし、小林は小林に見える。それは、実写向けに多少調整しているだけで、キャラの軸となるものは同じだからです。
── キャラの見た目で言うと、「ふくまるが実写でどう表現されるか?」というのは少し心配な点だったのではないでしょうか?
そうそう。しかも、最初ペットショップでふてくされているときから、おじさまとの生活の中でどんどんかわいさが増していくんですよ……! 第3話のパトロールのところが本当に好きです。「にゃにゃにゃ言葉」もあまりにもかわいくて、神木さん、本当にありがとうございます(笑)!
── ドラマ版のふくまるは、舌が飛び出しがちなのが良いですよね。
口も動くし、舌も出る! ここまでリアルなんだと驚いています。
Twitterという場では、好き勝手やってみるべき
── 『おじさまと猫』の原作マンガがスタートした経緯を教えてください。
── ボツになるような要素と言うと?
── おじさまもダメですか!
目元にちょっとシワが入っている程度で30、40代ならセーフかもしれませんが、しっかり口元にほうれい線があると、私自身、商業マンガ家として「これって大丈夫かな?」と不安になってきてしまうんですよね……。しかもブサ猫ですから、「マンガとしてキレイどころがなさすぎるかな?」と。どうしてもビジネスである以上、安全パイを選びたくなる気持ちが湧いてきてしまいます。ですが、そんなマンガがたくさんグッズを出していただけて、ドラマ化までしているのですから、わからないものですよね。
4ページのマンガは「おいしいところだけ」を意識
── 反響を受けて、まずTwitterで連載化、そして、『ガンガンpixiv』および『月刊少年ガンガン』での連載化と進んでいくわけですね。Twitterでマンガを公開する上で意識していたことはありますか?
最近はページ数の多いマンガがTwitterで公開される例も増えてきているので、一概には言えませんが、初期の『おじさまと猫』のように4ページというフォーマットで発表するなら、「おいしいところだけ」を意識すると良いと思います。4ページで提示することのできる情報は、「ふたりはラブラブになった」とか「ふたりはケンカした」とか、その程度なんです。キャラクターのバックボーンなどを深堀りする余裕はありません。私は神田のことを「おじさま」と呼び続けているんですが、それはなぜかというと、おじさまの名前は連載が開始して少し経ってから初めて出てきたものだから。つまり、キャラの名前だって最初に出さなくても問題ないんです。
「文章で説明するのではなく、絵やストーリーの流れで自然と情報を伝えられるようにする」というのは普通のストーリーマンガでも求められる能力ですが、4ページマンガとなると、よりシビアに情報の取捨選択をしなければいけません。将来的にはストーリーマンガを描きたい人でも、一度Twitterで4ページのマンガをアップしてみると、かなり勉強になると思います。
── 『ガンガンpixiv』と『月刊少年ガンガン』での連載になって、1話につき約20ページと一気にページ数が増えましたね。
もともと自分はストーリーを動かしていくのが好きな描き手なので、4ページだと、どうしてもキャラクターを見せるだけで終わってしまって、「これで良いのかな?」とソワソワしてしまう部分があったんですよね。なので、今は描ける幅が一気に広がって、一層やりがいがあります。おじさまと周囲の人々との関係の変化などは、ページ数が増えたからこそ可能になった展開です。
いったん物語に乗せてから、キャラの設定を詰める
── 『おじさまと猫』において、音楽というのも重要なテーマですよね。桜井先生は、何か音楽活動の経験があるのでしょうか?
下手ですが、ピアノは習っていましたよ!
── 音楽の世界で苦悩するキャラクターたちの描写も胸に迫ります。これだけ丁寧な描写ができるということは、桜井先生は、かなり熱心に音楽活動をされていた方なのかなと想像していました。
それは音楽活動の経験の有無というより、どの世界でも人間の苦悩の在り方は近いということだと思います。戦い続ける感情というものには、音楽でもマンガでも、どの世界でも共通する部分があると思います。
── 桜井先生は、どのようにキャラクターの設定を固めているのでしょうか?
キャラクターのプロフィールを完全に固めてからネームに取り掛かる作家さんも多いですが、私の場合は、キャラを作るのとネームは同時です。ネームを描きながら、「この場面でこういうセリフが出てくるっていうことは、この人はこんなふうに生きてきたんだろうな。その生き方のルーツは、こんな家庭に育ったからで~」と枝が広がっていくイメージです。ネームの作業をするうちに、そのキャラクターの一生が見えてきたら、やっと本格的にネームが切れます。だから、ネームを切り始めているのにネームがスタートしていないみたいな不思議な工程があります(笑)。
── 設定を元に動かすのでなく、物語の中の動きから設定にフィードバックしていく?
そうですね。私の場合、いったん物語の流れに載せないと、キャラクターを作りづらいんですよ。
新人時代、編集に問われた「あなたの個性は何ですか?」
── 『おじさまと猫』は、とても優しい雰囲気にあふれた作品ですが、キャラクターたちの言動を嘘くさく感じさせないのは、ひとりひとりのバックボーンがしっかり設定されているからなのでしょうね。
生きている上で、「相手はこういうふうに考えているんじゃないか」とか「相手を傷つけないように、どう伝えよう?」とか、他人の気持ちを慮って行動する場面ってたくさんありますよね。そして、気遣ってもらった相手もまた「この人は今、自分のことを思いやってくれたんだな」ということをしっかりキャッチする……。『おじ猫』という物語の根底にあるのは、日常生活のどこにでもある、そんな思いやりのやり取り、小さな幸福の図なんです。
── 前作に『おじ猫』と、桜井先生の作品は、「優しい」という言葉で形容されることが多いですね。
今の私であれば、「連載もまだの新人にそんな難しい質問しないでよ」と思います(笑)。だって、個性なんて本人にわかるわけがないじゃないですか。個性というものは、作品を描いているうちに読者や周りの人が感じとってくれるものなんですよ。私の作品を「癒される」と受け止めてくれる読者さんは多いようで、『おじさまと猫』は、そんな私の個性を最大限に発揮できる作品なんでしょうね。
── 作家自身が「自分の個性はこれだ」と決めすぎてはいけない?
:「自分はこうなんだ。だから、こういうものしか描きたくないんだ」と考えている人は多いと思います。でも残念ながら、自分にとって描きたいものが、自分には向いていない場合がある。また、自分では弱みだと思っている部分が、実は強みな場合だってありますし、その逆も然りです。なので、あまり自分で決め付けすぎず、いろいろなことに挑戦してみる姿勢が大事なのではないでしょうか。そうするうちに技術が伸びて、逆にいろいろなものが描けるようになるかもしれません。だから、「絶対成功させよう」と気負いすぎず、あえて軽い気持ちでいろいろ挑戦してみることが大事なのではないでしょうか。
トレンド入りした、ふくまる脱走編
── これまで特に思い入れのあるエピソードは何でしょうか? 担当編集の堀井さんにもお伺いしたいです。
ひとつに絞るのは難しいですね……! 全部と言いたいところですが、「描き切った」という感覚が得られたのは、ふくまるの脱走編です。ふくまるにとっては辛い展開が続きましたが、あの出会いを描くためには、どこか削ることは難しかった。その節は、読者さんを「早くおじさまと再会させてあげて!」と毎回ハラハラさせてしまって、すみませんでした(笑)。
やっぱり私も脱走編ですね。読者さんが首を長くして待ってくださったおかげで、再会のエピソードのときは、「#おじさまと猫」がトレンド入りしたんですよ! 私もネームを読んでデスクで泣きました(笑)。『おじさまと猫』は、ネームでよく泣かされるんです。最近だと、第69話で、ジョフロワさんの元に子猫が向かっていくシーンもボロ泣きしました。まずネームで泣いて、下書きで泣いて、写植のときにまた泣きました(笑)。
── ところで、『おじさまと猫』を読んでいて感じたのですが、桜井先生はブサ猫派なのでしょうか……!? ふくまるをはじめ、絶妙な顔立ちの猫ちゃんたちが登場するなと思い……。
── 最後に、ドラマもいよいよ後半戦です。原作者としてメッセージをお願いします。
ドラマ化が決まったのは読者の方々のおかげなので、皆さんに喜んでいただけたなら、もう何も言うことはありません。1話の優しい雰囲気は最後まで続きますので、ぜひ登場人物を愛でてあげてください。願わくは、ドラマの制作に関わった多くの方々にも「良い作品をつくることができた」と喜んでいただけたら幸いです。うれしさのあまり、つい視聴者の皆さんの感想をずっと読んでしまうのですが、私は原作者として原稿を頑張ります(笑)!
── 本日はありがとうございました!
『おじさまと猫』絶賛放送中!
・配信情報:
・ドラマ公式HP・URL:
『おじさまと猫』も連載中!pixivコミック
pixivコミックでは、6000作品以上の商業作品からpixivの投稿作品まで、今話題のマンガが無料で読めちゃいます!