ひと目で「かわいい!」と思わせる美少女イラストを描くためには?がおうインタビュー

構成/原田イチボ@HEW
柔らかそうな頬、サラサラの髪、吸い込まれそうな瞳……。イラストレーターのがおうさんが描く少女キャラクターは、誰もが見惚れるかわいさと同時に、「親しみやすさ」を兼ね備えているところが魅力です。がおうさんはこれまでゲームやライトノベルのイラストを多数手がけるほか、鳳玲天々さん、湊あくあさん、餅月ひまりさんといった人気VTuberのデザインを担当してきました。
そんながおうさんの初個展「Selfie Girl」が、東京・表参道にある「pixiv WAEN GALLERY」にて6月23日まで開催中です。イラストレーターとして第一線を走り続けるがおうさんに、美少女を描く上でのこだわりを聞きました。
もともとは少年マンガ家志望だった
── がおうさんは、なぜイラストレーターになったんですか?

物心ついたときから絵を描き続けていたので、高校生くらいの頃には自然とプロを意識するようになっていました。ただ、もともとはマンガ家志望だったんですよ。少年マンガを持ち込んで、賞をいただいたりもしたのですが、やはり連載となると難しい。20代半ばでイラストレーターに転向して、今に至ります。
── 現在のがおうさんといえば美少女イラストですが、ライトノベルの挿絵などを見ると、男性キャラもかなり描き慣れている印象でした。そこにルーツがあったんですね。

── 現在、メインのお仕事はどんなものですか?

ありがたいことにVTuberのデザインの依頼がすごく多いんですが、お受けする数はけっこう絞っています。なので、今はライトノベルの挿絵とか、これまでデザインを担当したVTuberさんのピンナップなどのお仕事が多いですかね。
── イラストレーターとして初めての仕事はどんなものでしたか?

これが少し特殊で、山口県にある徳山競艇場で行われるレースのポスターでした。
── 一体なぜ……!?

知り合い経由の依頼だったんですよ(笑)。RPG風にレースを紹介する試みの一貫として制作されたものだったので、競艇場のポスターではありますが、これも美少女モチーフでした。
イラストレーターとして埋没しないために絵柄を変えた
── そのポスターのイラストもpixivにアップされていますが、現在のイラストとはだいぶ異なる雰囲気ですね。昔と今とで、ご自身の絵柄の変化をどのように感じていますか?

商業で活動し始めた頃は、いわゆるソシャゲバブルの時代でした。当時は、はっきり陰影をつけて厚く塗る「美麗系」のイラストが重宝されていたのもあって、当時の自分のイラストも濃いですね。こういう美麗系のイラストは、需要も高い代わりに、他の大勢の絵描きさんの中に埋もれかねません。これはまずいと思って、塗りも線もあっさりしたものに変えていき、現在の作風に行き着きました。

がおうさんオリジナルキャラクターのあやかちゃん。(「コミックマーケット98カタログ」メロンブックス特典用イラスト)
── しかし、流行のテイストと違う道をあえて選ぶというのは、なかなか大きな決断ですね。

仕事としてシビアに考えたとき、やはり美麗系は描くのにカロリーがかかってしまいます。あとは、自分にそんなに向いているとも思えませんでした。振り返ってみると、ソシャゲの仕事をメインにしていたときは、美少女イラストとしても美麗系としても中途半端だったと思います。中途半端な絵柄で埋没するくらいなら、何かの要素に極振りしたほうがいい。もしも自分の絵柄に悩んでいる方がいたら、まず自分の適正をじっくり考えてみて、そこに極振りしちゃうのがいいと思います。
── 適正というのは、どのように見極めたらいいでしょうか?

ずっと描き続けて楽しめるモチーフ、手法には適正があるんだと思います。イラストを仕事にしていきたいなら、「自分の好きなものだけ描く」では厳しいけれど、とはいえベースに好きなものがないと描き続けることはできません。僕の場合、それがかわいい女の子でした。
より魅力的なイラストを描くために、あえてウソをつく
── 美少女イラストを数多く描かれていますが、ご自身のイラストでどこが「かわいさ」を生み出しているポイントだとお考えですか?

シンプルに、ぱっと見たときの顔の造形だと思います。さらに言うと、目ですね。かわいい目の描き方というのは自分でも言語化しきれていないのですが、まず目がよくないと美少女イラストは見てもらえません。そこをクリアしてから、初めてキャラクターの仕草など演技的な部分に注目されるのだと思います。
── 頬をむにゅっとさせる仕草や表情をよく描いていますが、頬はこだわっているパーツですか?

柔らかそうに見えたほうがいいかと意識して描いてはいます。単純にフェチなのかもしれません(笑)。

タピオカを食べるあやかちゃん。頰の柔らかさが伝わってくるよう。
── 透明感あふれる塗りの上で、意識しているポイントはどこでしょうか?

僕は逆光を使ったイラストをよく描くのですが、実際の逆光だと、もっと肌の色が暗く映ったりするはずなんですよ。現実では、ここまで全体的に明るくはならない。言ってしまえば、僕の絵は正しくないんです。ただ、そこをあえて無視して、より魅力的なイラストになるようにウソをついているのがポイントなのかなと思います。
── 2次元ならではのかわいらしさと、リアルな肉感が両立したボディラインも魅力です。参考にしているものはありますか?

ポーズを描くとき、グラビアなどの資料を用意するようにしています。もしくは、自分で手や足の写真を撮って参考にしています。
── セクシーな肉感を追求して美少女イラストを描いたとき、首から下と比べて顔が浮いてしまうことがあります。どうしたら違和感なくまとめられますか?

身体を塗り込みすぎると、アニメっぽい顔とのギャップが生まれてしまうかもしれません。たとえば胸を強調したいなら、胸はしっかり塗り込んでも、他はあっさりまとめる……のように、強弱を作ってあげると、違和感が軽減されるんじゃないでしょうか。
── VTuberのデザインで意識していることは何でしょうか?

動かすものである以上、デザインを複雑にしすぎないようにしています。よく言われることですが、肩に大きなパーツを付けてしまうと、髪などの他のパーツに干渉する場合があるんですよね。だから、なるべくシンプルなデザインを心がけています。その上で、湊あくあさんで言うと水色とピンクのヘアカラーのように、何かわかりやすい記号を盛り込むようにしています。

この仕事で食べていくつもりなら、地道な勉強を続けることは絶対必要
── ずばり、どうすれば絵が上手くなりますか!?

やっぱり、これは上手い人のイラストを横に置いて、じっくり観察しながら練習を重ねるしかないんですよ。練習を続けないと、自分のイラストのクオリティを高めていけません。自分は今でもそういうふうに練習しています。Twitterやpixivなどを日々チェックして、「これはすごいな」と感じた作品があれば、自分の作品との違いを客観的に見極めるようにしています。とはいえ最近の絵描きさんは技術が高すぎて、どう描いているのか全然分からないイラストも多いのですが……(笑)。それでも、ひたすら観察して「そのイラストがどのように描かれたのか」を掴むように意識しています。
── 「ここを意識するようになってから自分の絵は変わった」というものはありますか?

「誰に向けて絵を描くのか」を考えるようになって変わったと思います。自分の好きなように描けば、いい絵が描けるとは限らないんですよね。僕の場合、「ずっと同じことを続けて、収入面も含めて、イラストレーターとしてステップアップしていけるのか?」を冷静に考えたことが転機になりました。依頼された仕事をただこなすのではなく、もっと自分というイラストレーターを俯瞰で捉えて、「どうやったらファンを増やせるか?」と戦略を立てていきました。
── がおうさんにとって、「成長」というのが創作活動のキーワードなのでしょうか? イラストレーターとして成長していくこと自体に楽しさやモチベーションを見出している印象です。

そこは家族の存在が大きいですね。ひとりで生活できるくらいは稼げたとしても、家族を養うとなったら、また仕事への向き合い方も変わりますから。どうしてもクリエイターとしての寿命というものは存在していて、自分も60歳、70歳まで美少女イラストを描き続けられるかといったら正直わかりません。でも、人生を通してこの仕事で食べていくつもりなら、地道な勉強を続けていくことは絶対必要です。ずっとステップアップし続けるために、いろいろ作戦を練っているところです。
人生で初めて行く個展が、自分の個展
── 初個展「Selfie Girl」の見どころを教えてください。

これまで仕事で書いてきたイラストやオリジナル作品が集まって、僕のこれまでの活動の主たる部分が詰まった空間になっています。いち来場者としても個展というものに行ったことがないので、そういう意味でも人生初の個展です(笑)。あと12日にサイン会が開催されるのですが、それも初めてなんです。サイン会が告知された時点で「絶対行きます!」と言ってくださる方もいらっしゃいましたし、楽しみにしています。
── 展示イラストの中でも、特に湊あくあさんのイラストは壁一面使って展開されています。また、湊あくあさんも含めたキャラクターたちの等身大パネルも見どころです。


イラストや動画は、あくまで2次元ですからね。等身大パネルという3次元で見ると、また新たな発見があるんじゃないでしょうか。
── 会場内を撮影し、ハッシュタグ「#SelfieGirl」をつけてSNSに投稿すると、オリジナルキャラクターの「あやかちゃん」のグッズがプレゼントされます。あやかちゃんは、どのように生まれたキャラクターなのでしょうか?

コンカフェ(コンセプトカフェ)のキャストさんとか、自撮りをアップしている女の子のTwitterアカウントを見るのが好きで、「そういうかわいさを持った女の子」というアイデアから生まれたのが、あやかちゃんです。ばっちりプロデュースされたアイドルよりも、親しみのある子に惹かれるんですよね。
── なるほど、たしかにがおうさんの描く女の子たちは、美少女でも親しみやすい雰囲気があります。

他にあやかちゃんが生まれた理由としては、これも「イラストレーターとして、どう生き残るか」という話になるんですが、やはり自分で著作権を持っているキャラクターを展開させていきたいなと。それに商業のお仕事をたくさんやらせていただく中で、制約なしに描けるものが欲しいとも感じていました。「もしも好きなように描けたなら、あのとき、こう描いていたな」というのを今、オリジナルでやっているイメージです。
── 最後にがおうさんの今後の展望を教えてください。

コミケで壁配置される目標も実現して、画集も出させていただいて、個展もやらせていただいて……。ここから新たな目標をどう立てるべきか、むしろ誰かに教えてほしいくらいです(笑)。そこは悩みどころですが、末永く活動していくことが大きな目標ですね。とりあえず10年後もイラストレーターとして生き残っていたい。そのためにも、これからも勉強したり考えたりしていかないとなぁという感じです。