過疎ジャンルで感想がもらえない。でもあなたは唯一の村人ではなく唯一の神。/カレー沢薫の創作相談

過疎ジャンルでどう生きていけばいい?
私が10年ほど推しているカプは、恐るべきことに私しか住人がいません。なんなら私はそんなカップリングにばかり足を突っ込んでいます。けれど10年推して、一人も住人がいないというのは今まででもなかなか見ないレベルの過疎地域です。正直なところ、もう原作を履修するのも難しい作品ですし、過疎ジャンルどころか死滅ジャンルと言っても過言ではないと思っています……。書きたい気持ちはありますし筆は進むのですが、冷静な部分の私が「感想ももらえないのに何してんだ」と言っているのが聞こえます。どんなふうにこの荒波を乗り越えるべきでしょうか。
まず、何でも記録保存されるこの世の中において「履修するのさえ難しい作品」というのがなんなのかが気になりすぎます。
同人女の始祖とも言える紫式部パイセンのDB(ドスケベブック)ですら未だに読めるというのに、石板にしか掘られていない作品なのか、それとも大阪城と一緒に燃えてしまったのか、もしくはカルニオディスクス×トリブラキディウムという絶滅生物同士のカップリングなのか、疑問は尽きません。
しかし、ほぼあなたしかいないジャンルとはいえ、これを読んでいる方が「逆カプの者だ!」と憤慨し、絶滅危惧種同志の殺し合いになったら大変なので、あなたのジャンルとカプの話はこれ以上掘るのはやめておきます。
あとでDMください。
創作の楽しみというのは主に「描く楽しみ」「人に見せて感想をもらう楽しみ」そして「同好の志と語らう楽しみ」の三つではないかと思います。
最初の二つは言わずもがなですが、志を同じくする仲間とたき火を囲みながら、俺たちの推しカプがいかに尊いか、どれだけ結婚しているか語り合い、何故原作から推しカプの結婚式シーンが落丁してしまっているのか首をひねり合う時間はとても楽しいものです。
それにカップリングというのは、公式でなければ等しく妄想ですが、それでも同志が多ければ己のカプに対し「信ぴょう性」という錯覚を感じることができますし「みんなで推せば怖くない」という共犯意識から、自信をもって創作を発表することができます。
逆に「これは」というカプを見つけたとき、とりあえずpixivで検索をしてみて「0件」、もしかしてカプ名が間違っていたのだろうかと5種類ぐらい試して「0件」だった場合、「自分の感覚が間違っているのだろうか」という気になってしまい、そのカプで創作活動をすることを断念してしまうことすらあります。
どれだけ過疎でも好きなら堂々と活動しろと言いたいところですが、会場がでかい方がのびのび歌え、逆に壁がベニヤの木造アパートだったら小声になるのは当たり前というものです。
今のあなたは3つの楽しみのうち2つを完全に封じられている状態ですので、自給自足を越えて、自分の足を食っているという初期ワンピース状態かと思います。
では今の大好きだけど作物は育たず、他に住人がいると思ったら自分が干したヒートテックが風にたなびいているだけという無人島を捨てて、人口の多い大都市に移った方が幸せなのでしょうか。
大都市は確かに楽しい
確かに、同志(ファミリー)たちとデカいステージで、各々の推しカプのイメソン(米津玄師がかぶりがち)を歌いあうのは気持ちがいいものです。
私もどちらかというと、公民館レベルの過疎ジャンルで、近所の苦情に怯えながら推しの讃美歌を歌っていたタイプだったのですが、数年前、某剣何舞にハマったとき、デカいステージで騒ぐ楽しさを知りました。
自分の歌(作品)を聞いてくれる人も多ければ、自分の好きな歌(作品)を聞かせてくれる人も多く、観客も多いから歓声(感想)もでかい。
一応プロなのに100ブックマーク行くことさえ稀な私に4桁のブクマがつき、推しカプで検索したら「0件」どころか、多すぎて「じゃあブクマ1000以上から順番に見ちゃおうかな」という大富豪ムーブができる快感に「こ、これが都会でゲスねんか!」と、確実に自分の地元じゃない方言で感動しました。
それはそれは毎日たくさん創作し、三十路過ぎで同人イベントデビューまでして、本当に楽しかったです。
その経験から「やはりオタク活動というのは、会場がデカいほど楽しいものなのだ」と思い、またその興奮を味わいたく、その後も流行っているというものがあれば、とりあえずかじってみたり、絵を描いてみたりしました。
流行っているだけあり、描けば反応もそれなりにありました。
しかし、某剣のときほどの嬉しさはなく、描いているときもそこまで楽しくはなく、何より「この調子でどんどん描こう」という創作意欲がわかないのです。
そこで、某のビックウエーブに乗って、創作をするのが楽しかったのは、それが流行っていて人が多かったからではなく、単純に作品とキャラと推しカプのことが本当に好ききで、たまたまそれがビッグウエーブだったという「奇跡」が起こっただけだと気付きました。
つまり「誰も見てくれねえし、感想ももらえないし」と、本当に好きなジャンルを離れ、流行っていて人口は多いが、そこまで好きではないジャンルに移ったら、今あなたが唯一持っている「創作する楽しみ」という、ある意味一番大事なものが失われる可能性があります。
よってまず「創作すること自体を楽しむなら、残念ながら今のジャンルにいる以上のベストはない」と考えましょう。
どこも地獄なら好きだと思える地獄に
今あなたが「筆が進む」と言っているのも、やはりそのジャンルとキャラとカプが好きだからです。
「オラこんな村いやだ、オラある程度分別のある人だけが残った中堅ジャンルさ行って、久々の新規参入者としてチヤホヤされるだ」と別の村に行ったら、作品自体が生み出せなくなり、最悪全てを失う可能性さえあります。
たまに、作品が小当たりして調子に乗っている作家が「キャラが勝手に動きだしちゃうんですよね」などと言っていたりします。
二次創作も同じで、そのカプが本当に好きであれば「キャラが勝手に結婚しちゃうんですよね(俺の脳内で)」となり、気づいたらその様子が、ワードやクリスタ上に記されていた、という経験がある人も多いのではないでしょうか。
好きが高じすぎて筆が動かなかったり、「こんなの推しカプじゃない!」と作画伊藤潤二の顔でキャンバスを破壊してしまったりしますが、「俺の考えた最強の推しカプ作品を作る」という創作意欲だけは有り余っている状態です。
逆に、流行りジャンルの人気カプを「描けばブクマがたくさんついて感想が貰える」という理由だけで描け、と言われても、まず何を描けばいいのかわからないと思いますし、1回書けたとしても、次々描けと言われたらかなり苦しいと思います。
「自分の好き嫌い関係なく、とにかく流行っているジャンルの人気カプ作品を描きまくって、いいねをたくさんもらっている」と言ったら、すごく軽薄でチョロイことをしているように聞こえますが、これはこれで相当のガッツと覚悟、努力が必要なことです。
あっちの大都市はみんな楽しそうなのに、俺は死滅都市で一人何をやっているんだろう、と虚しくなっているかもしれませんが、大都市には大都市の地獄があり、虚しくなっている人も疲れている人も大勢います。
地獄のないジャンルと創作はありません。どうせ全部地獄なら、好きだと思える地獄にいた方が良いのではないでしょうか。
また、競技人口が少ないとオリンピック選手になりやすいように、過疎ジャンルだと「神になりやすい」という利点があります。
あなたの場合、1人しかいないので、自動的に神です。
よって自分は不毛の地を彷徨う憐れな旅人ではなく「唯一神」なのだと思って自信を持ちましょう。
とりあえず一体何を描いているのか気になるので、あとでDMください。
