「苦手なカプも読めるようになりたい」でも苦手を減らすより好きを増やそう/カレー沢薫の創作相談

文/カレー沢 薫
苦手なカプも読めるようになりたい
私は毎日二次創作を読み書きして楽しいオタクライフを送っているのですが、先日推し作家が私の苦手なカプで小説をあげていて、どうやらそれがとても評判が良いらしい、ということに気が付きました。
創作は個人の自由なので推し作家が苦手なカプを書くことそれ自体は構わないのですが(推しの生産品は全て尊い)、悔やむべくは自分がそれを食えないことです。それさえ食えたら私のオタクライフがもっと素晴らしいものになることは確定しているのに……。
よりよいオタクライフのために何でもバリバリ食べられる強いオタクになりたい。どうしたら苦手なカプも見られるようになるでしょうか。
お前が俺の創作を読む前に言っておきたいことがある
かなり厳しい話になるが俺のお気持ちを聞いておけ
プロフより先に作品を読んではいけない 4/4作品の1/4が注意書きだけでも憤ってはいけない
タグも全部見ろ 少しでも気にかかることがあるなら 「次へ」は押すな
それで助かる命もあるから
忘れてくれるな 推敲もできない俺に
万人が喜ぶものを書けるはずないってことに
お前にはお前の性癖があるだろうから
「地雷です」とか口には出さず 黙ってブラウザをそっ閉じろ
これはマサシサダ(サークル名)がコミケ後の打ち上げで必ず歌う「逆カプ宣言」の歌詞一部抜粋です。
基本的に二次創作は「気に入らないものは見ない」というのが一番平和であり、間違って見てしまった場合は怒らず忘れる。
そして間違わないように注意書きやタグには必ず目を通し「#昆布ふんどし」など、ちょっとでも不穏を感じたら、チャレンジではなく勇気ある撤退を選ぶことも大事です。
書き手が、本文より長いのではという注意書きを入れ、最後に「何でも許せる方向け」というソフト脅迫文を入れているのは自衛が第一ですが、苦手な人が間違って読まないための配慮でもあります。
それを無視して読むというのは「ペンキ塗りたて」と張り紙が貼ってあるベンチに座るようなもので、座った方はケツにペンキがベッタリだし、塗った方はベンチにケツ型がクックリだしでお互い損しかありません。
書き手のためにも苦手なものはわざわざ見ない、そして苦手を克服しなければいけないということもありません。
しかし、そのベンチに座った視線の先でセクシーな海兵隊が生着替えをしていたりと、そのベンチに座らなければ見ることができない絶景というものもあります。
だが、それを見たくてもペンキと言う名の地雷があるため、ベンチに座ることができない、そこにケツにホバリング機能をつけた奴が現れ、いとも容易くベンチに座り「うひょー!」とか言っていたら羨ましくてたまらないのもわかります。
そして自分もケツにホバリング機能をつけたい、つまり「苦手を克服したい」という気持ちになるのも必然というものでしょう。
実際、苦手が少ない人ほど座れるベンチが多く、絶景を拝むチャンスが増えるのですから、苦手は少ないに越したことはないし、克服できるものならした方が良いとは思います。
しかし、カップリングの好き嫌いを判断しているのは何かというと大体「性癖」です。
性癖というのは体質と同じで基本的に一生変わることがありません。
つまりカップリングの好き嫌いは「偏食」ではなく「アレルギー」である可能性が高いのです。
偏食であれば治る可能性もありますが、アレルギーの場合ガッツで治るというものではありませんし、むしろ克服しようとすればするほど死に近づきます。
「苦手を減らしたい」という心意気やよしですが、その結果苦手は克服できなかった上に、皮膚が草間彌生リスペクト模様になるという全損確率の方が高いのです。
苦手を減らすより、好きを増やす
しかし苦手には「食わず嫌い」が含まれていることもあります。
かりんとうを「どう見てもクソ」というだけで食べずに嫌っている人がいるように、カプも一回も読んだことがないのに「この攻め、闇オークションで逆に値切ってきそうな顔してるな」という特に根拠のないイメージだけで何となく避けてしまっている場合もあります。
だから苦手を減らしたいと思ったら、まず苦手カプの中に「食わず嫌いカプ」がないか確認してみてください。
「思い切って食ってみたら美味かった」ということもあるかもしれません。
しかしそれも、思い切っていきなり生で食ったら食中毒になって結局彌生エンドを避けられなかったりします。
そうならないためにも、食わず嫌いにチャレンジする時は、料理人と調理法を選んでから食べましょう。
具体的には推し、もしくは人気の高い作者の作品、または「受けが死ぬタイプのメリバ」など作品傾向が自分の好物なものを選んで読んでください。
しかし、それでも腹を壊すことはありますし「食わず嫌いと思ったらアレルギーでした」が最後の言葉になる可能性もあります。
どちらにしても苦手克服というのは簡単ではありませんし、その過程で嫌な思いをすることもあると思います。
なので「より多くの作品を楽しめるように苦手を減らす」ではなく「好きな物を増やす」ことを考えてみてはどうでしょうか。
この世にまだ食ったことがない食べ物がたくさんあるように、まだ触れたことのないジャンルやカプは山ほどあるでしょうから、それにチャレンジして新しい好物を増やした方が早いし安全のような気がします。
料理人が推しでもアレルギーはアレルギー
推し作家が自分の苦手なジャンルにハマってしまい、推しの作品が読めなくなって悲しい、という現象は稀によくあります。
「トマトは嫌いだけど、ママの作ったオムライスのケチャップは好き」という御仁がいらっしゃるように、苦手なものでも推しが料理することでおいしく食えたという場合もありますが、アレルギーであれば料理人が誰でも漏れなく彌生であり、最悪推し作家のことまで苦手になってしまうかもしれません。
よって、美味い中華を出していた店が突然苦手なイタリアンになってしまった時は、無理してイタリアンを食おうとするのではなく、中華に戻るのを「待つ」ということも大事です。
一度ジャンルやカプがかぶったということは、再びかぶることは充分ありえます。
そして待っている間は、空の茶碗をチンチンするのではなく、別の美味い中華を出す店を探したらよいと思います。
まだ出会っていない、名店という名の神作家はいくらでもいるはずです。苦手克服よりそちらの発掘に時間を使った方が有意義ではないかと思います。
推しカプより地雷カプのことを考えてはいけない 例えばわずか一秒でもいい推しより地雷を考えてはいけない
マサシサダ(壁サー)もそう歌っています。

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