創作は回避したいレベルにめんどくさい。「楽しそう」と思うだけでも幸せ/カレー沢薫の創作相談

文/カレー沢 薫
「二次創作をやってみたい」で創作してもいいのか?
結論から申しますに、描く前から「熱量が足りない」「真面目にやっている人に申し訳ない」と、描かない理由の方を長々クリエイトして描きださないあたり、あなたはアドバイスしても結局描きださないような気がします。
しかし、それが悪いわけではありません、何故なら創作というのはどんな言い訳を並べてでも回避したいレベルで面倒くさいからです。
私だって、〆切、何より生活に追われていないなら描きません。
なんとしてでも原作で落丁していた推しカプの結婚式を具現化させたいという熱量、もしくは生活という名の生死がかかっていない限り、イマイチ重いケツを上げる気にならないのは当然です。
それに一見煮え切らないように見えるあなたの姿勢も「コンテンツの楽しみ方」としては非常に健全です。
私のようなインドアクソ野郎ですら「ゆるキャン▽」を見て、キャンプって楽しそうだなと思いますし、ちょっとやってみたい、とすら思うことがあります。
しかし、実際は椅子にケツが溶接されたままですし、自分がやったところで楽しめないということもわかってはいるのです。
ですが、どうせやらないとわかっていながら、シミュレーションだけするのも楽しみ方の一つですし、むしろ遠足の前日が一番楽しいように、想像に留めておくのが一番楽しい可能性すらあります。
本当にやってしまったら「虫がエグイ」「JKの友達がいないし何より自分がJKじゃない」などの現実を目の当たりにして、キャンプはもちろんゆるキャンすら素直に楽しめなくなる恐れがあります。
よって、今無理に描き始めて「そんなに楽しくなかった」という結論に至るより「楽しそう」と思ったままモダモダしているぐらいが、あなたにとってのちょうどいい「創作の楽しみ方」なのではないでしょうか。
創作したくなる作品に出会うまで火種をとっておく
そんなシケモクみたいな状態を続けたくないと思うかもしれませんが、おそらく今のモチベで描いても「1ページ目の下書き以外白紙のクリスタデータ」という正真正銘のデジタルシケモクが生成されてやる気が完全に鎮火するでしょう。
それよりも燻っているものは燻り続けたままでいいですし、燻っている以上いつ火がつくかもわかりません。
私も中学生ぐらいの時に「同人誌を作ってイベントとか出てみたいな」と思ったまま20年ほど湿気り続けましたが、某刀に出会って急に火がつき、30半ばにして初めて同人誌を完成させ、イベントに初参加しました。
そのときすでに漫画家にはなっており、マンガがどれだけ面倒くさいかわかっていたはずなのですが、仕事でマンガを描き、趣味で同人誌を完成させ、さらに会社にも行っていました。
このように、火がつくときは「むしろ誰か消してくれ」というぐらい燃えてしまうものなので、いつかそういうコンテンツに出会う日まで火種はとっておきましょう。
それにしても、ゆるキャンを見てキャンプがおもしろそうと思うのはわかるのですが、この創作相談の登場人物は全員地獄のような悩みをもった創作者なので、この連載を見て「創作活動楽しそう」と思うのは、八甲田山を見て冬山登山に関心を持つぐらい不可解です。
しかし、私も漫画家になる前は、今では嫌でしかない「〆切」も、漫画家っぽくてカッコいいと思っていました。
もしかしたらあなたは創作自体ではなく、創作をすることによる悲喜こもごもに憧れを抱いているのかもしれません。
別にそれが目的でも構いません。私も漫画家になってしまったせいで、マンガを描くこと自体はそこまで好きじゃないと気づいてしまいましたが、描き終わった後の達成感や、作品に対するお褒めの言葉、振り込まれる原稿料については今でも大好きです。
しかし、それらのこもごもの大半は作品を完成させた後にやってくるものです。
よって、何でもいいから1回作品を完成させてpixivなどに投稿するところまでやってみてはどうでしょうか。
そうすれば、創作自体は楽しくなくても、完成の達成感や、いいねや感想が嬉しくて、それ欲しさに創作趣味にハマっていく、ということもありえます。
もしくは「せっかく投稿した作品が全く見られない」など、新たな悩みが発生し、無事この連載に出てくる地獄みたいな悩みを持った創作者の一人になることができます。
それか、あなたの作品が「私の大作より『とりあえず創作してみたいから描いてみた』みたいな作品の方がウケている」という、別の創作者の新たな悩みになるかもしれません。
創作はこのような亡者の足の引っ張り合いなので「楽しそう」でとどめておくのも十分幸せだと思います。
