必要なのは画力じゃない?LINEクリエイターズスタンプ攻略法

インタビュー/直江あき
自分で制作したスタンプを販売できる、LINE クリエイターズスタンプ。トップクリエイターともなると、その売り上げはなんと7億円以上! しかも、イラスト制作が初めてでも月収100万円超えの人もいるとか……?
もし自分が作るなら、できるだけたくさんの人に使ってほしい!
数多くあるスタンプのなかで、売れるスタンプとはどんなスタンプなのか。絵柄は? 文字は? 想定ユーザーは? LINEスタンプ事業本部の石川 康さんに、データと体感でスタンプを売るための攻略法をお聞きしました。
トップクリエイターはここが違う!

──トップクラスのクリエイターさんのスタンプの売り上げはおよそいくらなのでしょうか。
売り上げ上位10名のクリエイターさんの平均販売額(累計)は7億7,357万円を記録しています。累計で1億円以上を売り上げているクリエイターさんは26人にのぼります(サービス開始から2019年5月8日まで)。
また、「うざいマン。」作者のザ・スター17さんのように、イラスト経験が全くない状態でスタンプを作り始めて、月100万円以上の収入を得るにいたった方もいらっしゃいます。
──すごく夢があるお話ですね。
販売価格のうち、売り上げの30%がAppleやGoogleの手数料で引かれ、残り70%を弊社とクリエイターさんで折半する形となります。
漫画家の印税が10%と言われていますので、そこから考えると夢のある数字なのではないかと思います。
──ビジネスとして十分にやっていけそうな割合ですね。
クリエイターさんへのアンケートなどによると、スタンプ制作のモチベーションになるのは、好きでやっているからだという意見がものすごく多いです。
トップクリエイターさんでも、2年ほどかけて花開いたという方もいらっしゃいますが、作り続けるというのは、好きじゃないとできないことだと思います。
にしむらゆうじさんもずっと作り続けている方のひとりで、これまで作られたスタンプのセット数は541セットに上ります。(11月6日現在)この方のごきげんぱんだシリーズは昨年、LINEほけんのスポンサードスタンプに起用されたことで認知が広がった結果、相乗効果でごきげんぱんだがランキングを占めたということがありました。
──トップクリエイターはここが違う、みたいなところはありますか。
クリエイターは、販売したスタンプの利用頻度などをデータとして見ることができます。クリエイターのポテ豆さんはそこを上手に活用されていて、自作の他シリーズスタンプで人気だった表現を、ブラッシュアップさせて使っています。いいと思ったものの完成度をさらに高めていってるんですね。このような積み重ねこそ、トップクリエイターたる所以だと思います。
他にも、Twitterなどでどの絵柄がいいかをフォロワーにアンケートを取る方もいらっしゃいます。sakumaruさんも、SNSで「どっちのセリフの方が好きですか」と問いかけ、ファンの意見を作品のラインナップに反映させていました。
トップクリエイターの方々は、こちらの頭が下がるくらいマーケティングされています。マーケティングというと難しく聞こえますが、そのスタンプを受け取った側がどう感じて広がっていくかを売れる仕組みとして考えるということです。
売れるスタンプとは
──スタンプの流行りに特徴などはありますか。
絵文字など、新しいプロダクトを提供した際にはクリエイターさんからの反響が一定数あるので、流行が生まれやすいです。たとえば、写真を使ったスタンプが解禁になったときに、ヨシナガさんが生肉の「肉くん」スタンプを作ったんですね。解禁されたその日に、その足でスーパーに行って肉を買って撮影し、翌朝には申請されていました。その素早い対応が効を奏し、そこから火がついて、実写を使ったスタンプが流行りだしたんです。
他にもひとりのクリエイターさんの発想から、突発的にトレンドが発生することも多いです。LINEの吹き出しを模したスタンプというのもありますが、こちらもあるクリエイターさんのアイデアで、販売と同時に一気に人気が広がっていきました。
──みなさんアイデアが奇抜ですね。
昨年、クリスマスキャンペーンとして、クリスマスや冬をテーマにしたスタンプを作ってくださいという特集企画を行ったんです。その際に、それまで意外になかったグリーディングカードを模したスタンプが販売され、高い売り上げを記録しました。
奇抜さも大事ですが、ユーザーに受け入れられるものを作れるかが重要なんだと思います。
ちなみに、1年を通してスタンプの購入や送受信が最も活性化するのは、年末なんですよ。
──年始の挨拶のスタンプを作ったら売れやすいということでしょうか?
そうですね。「あけましておめでとう」は年始にしか使わないので、クリスマスメッセージがセットの「年末年始の挨拶セット」として作られたりと。みなさん色々と工夫してやられていますね。
──人気のモチーフなどありますか。
モチーフには、犬や猫・うさぎといった動物が使用されることが多いです。自分の飼っているペットをスタンプに投影するという方が多いようです。他にも色が白い・形が丸いといったものが好まれます。
──白くて、丸い?
スタンプはイラストの一種ではあるんですが、純粋なイラストというよりもコミュニケーションの手段であり、言葉の代弁なんです。挨拶で相手にとって不快なイラストを使ったら、そこで驚かれて会話が止まってしまいます。コミュニケーションを阻害しないという意味で、白くて丸いものが比較的受け入れられやすいんです。
とはいえ、特徴的なキャラクターのスタンプも人気ですので、そういう傾向があるよぐらいのものと捉えていただければと思います。特徴的なキャタクターはコンセプトが大事になってきます。たとえば、このカワウソは、「可愛い嘘のカワウソ」というスタンプで、文字通りカワウソがかわいい嘘をつくというキャラクター設定で大人気となっています。このようにコンセプトがしっかりしていて、かわいい要素もあることでヒットにつながることがあります。
──海外ではどのようなスタンプが人気がありますか。
海外ではタイや台湾、インドネシアでもスタンプがよく使われていますが、各国で傾向は少し異なります。
たとえばタイではガーリーなでか文字が人気だったり、台湾ではSNSで有名なイラストレーターのものや、ネタ系スタンプが人気だったりします。インドネシアでは激しく動くアニメーションスタンプが好評ですね。
国の文化によって好みが大きく分かれているんです。
──では、海外の方に買ってもらうのは難しいでしょうか。
日本語録のスタンプを海外の方が購入されるといったこともありますが、海外向けにローカライズされている方が売上には結びつきやすいです。イラスト部分はそのままに、タイトルや文字の部分だけを海外の言葉に変えたりとか。それぞれの国の好みなどを分析されている方も中にはいらっしゃいます。
──今、狙い目のターゲット層などはありますか?
LINEは、若年層だけでなく、40代から60代の方と幅広い層へと利用も広がっています。また、LINEで積極的にコミュニケーションをとるのは女性の方が多いので、40代以上の女性を対象にしたスタンプは勝機があると思います。実際、購入者の大半が50代以上の女性というものもあるくらいなんですよ。
──その年代の女性が好むスタンプを教えてください。
たとえばこの「大人女子。シンプル。」というスタンプ。シンプルで使いやすく、文字が大きいため年配の女性が購入しています。 小さい文字が見づらい年配の方は、大きい文字が特徴の「でか文字スタンプ」を好まれる場合が多いです。なので必ずしもイラストに凝るという必要はありません。
もちろんタイミングもあるので、この通りにやっても売り上げに繋がらないこともあります。ただ、売れているものは戦略として考えられていているものが多いですね。売れるスタンプはイラストそのものがクリエイティブでなくても、戦略はクリエイディブだなと感じることが多々あります。
──スタンプショップには、膨大な数のスタンプが販売されています。埋もれずにアピールする方法はありますか?
公式スタンプの新作が、毎週火曜日と木曜日の11時にリリースされ、このタイミングで多くのユーザーがスタンプショップやLINEストアを訪問します。なので、この時間に合わせて販売するだけでも、注目度はだいぶ上がります。
スタンプはクリエイターさん自身で販売開始のタイミングを選ぶことが可能ですので、タイミングを計って機会の最大化を計っていただければと思います。
クリエイターの「創作したい」を応援したい

──月間MVPの表彰など、クリエイターの育成に力を入れているんですね。
より多くの人にスポットが当たるようにしたいと考えています。クリエイターさんの登録だけでも5月の時点で200万人を超えていますので、どうすれば最近始めた方にもスポットが当たるのかは、常日頃考えています。
今はユーザーさん自身がコンテンツを持つ時代なので、時代に沿った形になっているかのチューニングも常に考えて行っています。
クリエイターズマーケットは、クリエイターさんの「創作したい」という気持ちに応える形で生まれたものなので、創作活動への支援を行うのが方針です。
「LINE Creators Management」として、グッズ展開などスタンプの販売以外のお手伝いもさせていただいています。クリエイターさんと話し合いながらグッズを作り、ポップアップストアをオープンさせるなどの事業も行っているんですよ。
──手厚いですね。スタンプづくりに挑戦したくなってきました。
クリエイターズスタンプは、作るスタンプの数のセットも8個、16個、24個、32個、40個の中から自由に選べます。いきなり40個作るのが難しい場合、まずは8個のセットから気軽に始めることができます。
また、「LINE Creators Studio」というアプリを使えば、スマホで写真を撮ってメッセージを入れるだけで簡単にスタンプを作ることができます。友達同士で写真を撮ってスタンプに加工するというようなことも可能です。
内輪だけで楽しみたい場合は、URLを知っている人だけがダウンロードできるスタンプを販売することもできます。僕も、友達のスタンプをお誕生日に作って贈ったり、逆に贈っていただいたことがあります。
──いろんな種類があるんですね。
特にpixivユーザーさんとも親和性が高いのが、「LINE Creators Collaboration」というサービスです。許諾を得た人気作品のスタンプを作ることができるので、同人誌や二次創作のようにファンが楽しめつつも、売上の一部を収益として受け取れると評判です。現在は第三弾までのコラボ全てが終了していますが、みんながあっと驚くような第四弾を年内に発表予定でおりますので、ご期待いただければと思います。
──さっそく作りたいと思います!
まずは気軽にトライしていただくのがいいと思います。
──最後に、pixivユーザーに向けてアドバイスをメッセージやお願いします。
スタンプ制作は、高い画力は必ずしも必要とされていません。それよりも、送る相手に今の感情をうまく伝えられるということが重要です。「楽しいこと」「うれしいこと」「感謝の言葉」などのポジティブな気持ちが相手の心を動かすと僕は思います。その伝えたい気持ちをスタンプに乗せ、自由な発想でスタンプ制作に参加してもらえればと思います。
──ありがとうございました!