殺し屋×殺し屋のラブサスペンス『殺し愛』のアニメ放送直前!原作者・Feインタビュー

構成/原田イチボ@HEW
『月刊コミックジーン』にて連載中のサスペンス・マンガ『殺し愛』のアニメ化が決定。アニメ版は1月12日よりTOKYO MXほかで放送開始します。
クールな賞金稼ぎの女・シャトーと謎多き最強の男・リャンハ、ふたりの殺し屋をめぐる物語は、いくつも張り巡らされた伏線が魅力で、シリーズ累計75万部(2021年12月現在。電子も含む)を突破するほどの人気を集めています。pixivでプロト版が初投稿されてから約9年、満を持してのアニメ化――。原作者のFe先生に執筆秘話を聞きました。
原作者が「そういう表現をとるんだ!」と驚いたアニメのシーン
── まずアニメ化が決まったときの気持ちを教えてください。

うれしいと同時に、「こんなタイトルのマンガがアニメ化して大丈夫かな?」と心配になりました。このタイトル、ちょっと照れませんか?(笑) pixivに投稿していたときは、『殺し愛カップル漫画が読みたいだけの小話』というタイトルだったんですよ。商業連載が決まり、当時の編集さんの提案で今の形になりました。インパクトの強いタイトルだからこそ、ありがたいことに大勢の方々の目に留まる作品になったんでしょう。ただ、単行本2巻が出たくらいの頃、その編集さんから「このタイトルでアニメ化はないでしょうね」とも言われたんですけどね(笑)。
── それがまさかのアニメ化ですね。アニメ化にあたって、原作者として何か要望は出しましたか?

「全12話のうち、できればここまで入れてほしい」と希望した通りにしていただけたのですが、監督や構成の方にはだいぶ苦労をかけてしまったと思います。
1話より。アクションシーンもセリフがなく緊迫感が溢れています。
── 伏線が張り巡らされたストーリーなので、取捨選択が難しそうですよね。あとは大庭秀昭監督が「モノローグがなくセリフが少ない作品なので、アニメ的には非常にハードルが高いけど、この作品の魅力はそこにある」とコメントしているのを目にしました。

セリフが少ないぶん、すごく音楽に力を入れていただいているのを感じます。劇伴がすごくかっこいいんですよ! ぜひ皆さんにもフルでじっくり聴いていただきたいです。「これがBGMって、なんて贅沢なんだ」と感じました。
── 一足先に第1話をご覧になったそうが、いかがでしたか?

シャトーとリャンハは序盤でもっと距離を縮める予定だった
── 『殺し愛』を読んでいると、「あのときのあれが、こう繋がるのか!」と驚きっぱなしです。連載スタートの時点で、主役ふたりの過去などストーリーの構想は全て決まっていたのですか?

ちょっと言いにくいのですが、正直ほとんど考えないまま商業連載が始まりました。タイトル通り、「殺し愛カップル漫画が読みたい」以上でも以下でもなく始まった作品なので、ストーリーに関しては「広げた風呂敷をなんとか畳もう。あれっ、はみ出たぞ?」みたいな苦労の連続です。
── 第1話のタイトルが『WHAT'S YOUR NAME?』なので、「うわー! 最初から全部計算されていたんだ!」と鳥肌が立ちました。

それは初代編集の功績ですね(笑)。「名前というのがキーワードの物語になるかもなぁ」くらいのところを上手く拾ってくれて、それが結果的にすごくハマった。だから1話の時点で私の頭の中には全部あった、という話では全然なく……。
── 執筆する中でストーリーがドライブしていったんですね。

「こういう話にしよう」みたいなイメージは一応あっても、いざネームを書き始めるとキャラクターが私の言うことを聞いてくれず、予想外の方向に進んでいくことがよくあります。リャンハは比較的まだ素直なんですが、シャトーは全く言うことを聞いてくれません。実はふたりはもっと序盤で距離を縮める予定だったんですが、シャトーが頑固なせいで、なかなか進展しませんでした。
── そこがシャトーの魅力でもありますけどね。リャンハに助けられても「ありがとうございます。でも、それはそれ。これはこれ」という態度を崩さない。

絵やシチュエーションを優先させて、いったん描き始める
── 私も創作をするのですが、しっかりしたストーリーのある物語を作るとき、「どこまで決めた時点で描き始めるか」の見極めを難しく感じています。ガチガチに決めすぎるせいで描く前に飽きてしまいがちで……。決める部分は決めた上で、いい感じのドライブ感は持ったまま執筆できるバランスというのに悩んでいます。

すごくわかります。でも私はほぼ見切り発車ですね。「細かい部分は後でなんとかすればいいや」と、いったんスタートするせいで苦労しています(笑)。
── 見切り発車とのことですが、「これが決まったら、もう発車しちゃう」というポイントは何でしょうか?

絵やシチュエーションを優先させて、ストーリーは後から帳尻を合わせる感覚ですね。「こういうシーンを思いついたので、いったん描き始めます」みたいな。だからシャトーとリャンハの過去の繋がりとか、最初にストーリーで匂わせた時点では細かいことは何も考えていませんでした。
── 逆に、帳尻合わせの能力がすごすぎる……! ただ、本編に出しきれなかった設定もあると聞きました。差し支えのない範囲でぜひお伺いしたいです!

本編にあまり関係ないところで言うと、「シャトーの初恋は社長だった」とか、「リャンハは三檮会の催しで女装したことがある」とか……。ミニボイスドラマでそういう小ネタをどっさり消化したので、ぜひ聴いてみてください。
「ドラマっぽい雰囲気」を出すため、モノローグは避ける
── 『殺し愛』は海外ドラマのようなシリアスな雰囲気も魅力です。何か影響を受けた作品はありますか?

海外ドラマは『ウォーキング・デッド』程度しか観ていないのですが、たしかに『殺し愛』を描き始めた当初、「ドラマっぽい雰囲気を出したい」とは考えていました。日本のドラマは結構観ていて、特に初期の『相棒』が好きですね。あとは『HUNTER×HUNTER』が大好きなので、ヨークシンシティ編とかの影響は露骨に受けていると思います。
── 「ドラマっぽい雰囲気」とは、たとえばどんなことですか?

あまりモノローグは使わないように気をつけています。キャラクターが頭の中で現状を整理するようなことはあっても、感情を言葉にする少女マンガ的なモノローグはできるだけ避けています。自分なりの挑戦というと少し大げさかもしれませんが。
── 「自分なりの挑戦」ということは、もともとは『殺し愛』と異なる作風だったのでしょうか?

『殺し愛』が初連載ではありますが、デビュー前はもう少しギャグ寄りだったので、たしかに「これが私のメインです」という感覚は意外とないかもしれません。シャトーとリャンハも私が昔から描いていた感じのキャラクターではないんです。シャトーのビジュアルのベースにあるのは実は友人のアイデアですし、リャンハも「そういえばキツネ目のキャラって描いたことがないな」というところから生まれました。
── Fe先生が今まで描いてこなかったようなキャラクターを今までとは少し違った作風で動かしている作品が『殺し愛』なんですね。

── 逆にFe先生が昔から描いてきたようなキャラクターとなると誰でしょうか?

誰だろう……? よく描くキャラクターとは少し違いますが、社長とジノンは主役ふたりより先に生まれました。昔はわりと社交的というか明るめのキャラを描くことが多かった気がします。だからシャトーは私の中では珍しい感じのキャラなんですよね。
人気企画「顔面蒼白アオリランキング」の裏話

── 単行本のおまけの「シャトーサァンガ顔面蒼白ニナルアオリランキング」が大好きなんですが、あの企画はどのように生まれたんですか?

── 作家側からイジってもらえると、きっと編集さんも腕が鳴りますよね。

たぶん喜んでいたんじゃないかと思います。今の編集さんはふたり目なんですが、いい感じにセンスを引き継いでくださって……。荷が重く感じているとしたら申し訳ないですが(笑)。

いえいえ、やりがいがありますよ(笑)。なるべく初代担当の味を壊さないように過去の煽りを参考にしつつ、そのエピソードに合った内容になるように気をつけています。担当作の中でも一番アオリに時間をかけているかもしれません。「心の中の厨二病を呼び覚ます」というのを大事にしています。
── 「初代の味を壊さないように」って、なんだか伝統のタレみたいな……(笑)。

商業連載化してもpixivに小ネタを投稿し続ける理由
── 『殺し愛』のプロト版にあたる『殺し愛カップル漫画が読みたいだけの小話』がpixivに初めて投稿されたのが2012年で、『月刊コミックジーン』で連載開始したのが2015年です。今ではウェブから商業連載が決定するのは普通のことですが、当時はまだちょっと珍しかった気がします。

当時も全然なかったわけではありませんが、たしかに今ほど当たり前ではなかったですね。『殺し愛カップル漫画~』を初めて投稿したときはブックマークが50か60くらいついて、その頃の私としてはすごい数でしたが、けっして「バズった」と呼べるほどの反響でもなく……。『pixivision』の前身みたいなメディアがありましたよね?
── 『pixiv Spotlight(ピクシブスポットライト)』ですか?

そう。『pixiv Spotlight』で『殺し愛カップル漫画~』を取り上げていただいて、初めて「これはバズった!」と感じられるほどの反響がありました。実際、商業化を打診されたのもそのタイミングでした。
── オファーがあったときはイタズラかと思って出版社のサポートセンターに問い合わせたそうですね。

はい。何件かご連絡をいただいて、うれしくは感じつつも、「まぁイタズラだろうな」と(笑)。でも、もし本物だったら……と問い合わせてみたら、ウソじゃなかった。ただ当時すでに社会人だったので、連載のお話はお断りするつもりだったんです。でも家族が「お話を一度ちゃんと聞いてみたら?」と背中を押してくれました。
── 第1巻が出るまでは兼業作家だったんですよね。「働きながらは無理だ」と考えつつも最終的に連載に踏み切ったのはなぜですか?

商業デビューを目指して活動していたわけではありませんでしたが、やっぱり好きで描いてはいたので、「こんなチャンスないだろうし、やらせてもらえるなら、やらせていただこう」と決意しました。あとは家族が応援してくれたのが大きいですね。職場も理解があるところだったので、スケジュールに都合をつけてくれました。
── 仕事をやめて専業作家になるのも大きな決断だったと思います。

当時の編集さんからも「正直、仕事を続けられるなら続けたほうがいい」とは言われていました。専業作家という立場だと、連載が終わると収入がゼロになってしまいます。私自身あまり冒険できる性質ではなく、仕事を続けるか否かは悩みどころだったのですが、1巻が発売された後、「この感じなら2巻も出せるだろう」ということになり、思い切って連載に専念することを決めました。実家暮らしなので、まぁ連載終了しても即生活に困ることにはならないだろうと。
── Fe先生は連載をやりながら、シャトーとリャンハの小ネタをpixivにも投稿されていますよね。兼業作家だった経験もありますし、スケジュール管理の鬼なのでは……?

アニメ化もpixivで報告。
自分のキャラクターを愛する秘訣は、大量に描くこと
── シャトーとリャンハが生まれてから約9年。ひとつのキャラクター、物語をこれだけ長く描き続けるモチベーションは何でしょうか?

自分でもよく飽きずにこれだけ描き続けられるものだと感じます(笑)。楽しんでくださる方々がいらっしゃることがモチベーションになっていますが、やっぱり一番は、自分で自分のキャラをかわいく思っていることでしょうね。
── 自分のキャラを愛する秘訣はなんでしょうか?

「このキャラいいじゃん」という熱が自分の中にあるうちに大量に描くことですかね。描く中で新たなアイデアが湧いてきて、さらに描き続けられる部分ってあると思いますし、そこからちょっとしたストーリーに繋がっていくこともあるでしょう。どうしても熱が持続しないようなら次に切り替えたらいいし。やっぱり勢いは大事にしたほうがいい!
── 最後にpixiv発の作家として、デビュー志望の人々にメッセージをお願いします。

あまり立派なことは言えませんが、自分の場合、好きなことを気長に続けていって今があります。私もひとりの読者として面白い作品に触れたいので、ぜひ読ませてください。皆さんのことを応援しています。
<放送情報>
TOKYO MX 1月12日より 毎週水曜 24:00~
サンテレビ 1月13日より 毎週木曜 24:00~
KBS京都 1月13日より 毎週木曜 25:00~
BS日テレ 1月12日より 毎週水曜 24:00~
AT-X 1月13日より 毎週木曜22:30~
リピート放送:(月)10:30/(水)16:30
<配信情報>
dアニメストア 1月12日より毎週水曜23:30~
その他サイトも順次配信予定