【新連載】カレー沢薫の創作相談/人気ジャンルのスピードに焦ってしまう
文/カレー沢 薫
今回から「カレー沢薫の創作相談」として、皆さんの創作のお悩みに答えていく次第である。
もちろん技術的な悩みに答えるというわけではない。そんなのローソソで「ファミチキありますか?」と聞くぐらい間違っている。
実は、pixivision以外にもお悩み相談コーナーを持ったことはあるのだが、その際にも家族不和とかガチな悩みに混ざって「解釈違いとの向き合い方がわからない」「過疎だった自ジャンルに人口が増えて来て複雑」「ショタコンです、どうしましょう」みたいな、非オタには何に悩んでいるのかすらわからない、鴻上尚史先生のところにはまずこないような悩みが結構来ていた。
逆に鴻上先生が逆カプにどう対処するかを聞きたいが、ここpixivでは同じような悩みを抱えた人も多いだろう。
そんなオタクの面倒すぎる悩みに個人の感想(炎上対策)で答えるコーナーである。
「ビッグウェーブにうまく乗れない」
私のところにこういう相談が来ている間に、鴻上先生のところには、不倫で生んだ子どもに父親のことをどう伝えるか悩んでいる、というお悩みが来ているのですが、創作者にとってはそれと同じぐらい重い悩みです。
普通なら、二次創作というのは、趣味なのだから、描くことが苦痛なら無理に描くべきではない。描くことが楽しいと思えるときにマイペースに描くべきだと答えるところかもしれません。
しかし、時代は令和、創作の楽しみは「描くこと」であり、それ以外は邪道というのは多様化社会に相応しくない古い考えといえるでしょう。
ネットでよく見かける「乗るしかない、このビッグウェーブに」の方を見てください。
これ以上「楽しそう」を表現するのは無理なのではというぐらい楽しそうではないですか。
つまり流行りジャンルというビッグウエーブに乗るのは間違いなく「楽しい」ことなのです。
流行りに乗る人のことをイナゴと揶揄することもありますが、それはあくまで迷惑行為などで場を食い荒らす人のことなので、流行ジャンルに次から次へと飛び移るというのも個人の楽しみ方としては間違っていないのです。
他にも、描くこと自体はそこまで好きではないが、描けば周りが喜んでくれたり、イイねがたくさんつくのが楽しいから描いているという人もいますし、最近「自分は全くBLを理解できないが、BLを描くと腐女子が喜んでいるから描いている人がいる」というツイートを見かけました。
つまり、創作の何に「楽しさ」を見いだすかは人それぞれであり、他人の迷惑になることでなければ、どの楽しみ方も間違っているというわけではないのです。
楽しみと「苦痛」
そして、創作にはほぼ必ず「苦痛」が伴います。
ビッグウエーブも乗りたてのときは、描くのも楽しいし、反応が貰えるのもうれしいし、他の人の作品もたくさん読めるし、で楽しい以外ないのですが、それはほんのわずかな期間です。
時間がたてば、あなたのようにスピードについていけなくなったり、推しへの愛に画力が追いついてないことに落ち込んだり、自分より上手い人に嫉妬したり、解釈違いに腹が立ったり、何らかの「苦痛」が出てきます。
ずっと、楽しいだけのまま、クオリティの高い作品を量産し続ける人というのは、よほどの天才か変態、もしくはAIです。
正直、足腰つらいけど、それでもみんなと波に乗っているときの楽しさは捨てられないから描いているという人もたくさんいると思いますし、そういう楽しみ方もあるのです。
私も、マンガを描くこと自体は完全なる苦痛なのですが、描き終わった原稿をメールに添付し「送信」ボタンを押すときに絶頂したり、口座に金が振り込まれたりするという楽しさがないわけではないので、その快感を得るために、作画や締め切りという苦痛は我慢している状態です。
つまり、多くの創作者にとって、創作というのは、どの楽しさを選んで、どの苦痛に耐えるか、という取捨選択なのです。
ビッグウエーブさんだって、ビッグウエーブに乗るために、朝5時に起きているかもしれないのです。
よってまず、あなたが創作の何に楽しみを見いだしたいのかをはっきりさせた方が良いです。
今のあなたは、波には乗りたいけど、マイペースにやりたいし、と方向性が定まってないため、却ってどっちにも一歩も進めず苦しい、という状態になってしまっています。
人気ジャンルという波に乗って、過疎ジャンルとは桁が違うイイねやブクマ、そして「感想」という、これがなくて餓死して描くのをやめる創作者が後を絶たないごちそうを、むにゃむにゃもう食べれないよとデブの寝言が出るぐらいいただく、という点に楽しみを見いだしているなら「描くのが楽しくない」「ついていくが大変」というのは、楽しみのために我慢すべきことだと割り切りって描けるようになります。
逆に「描くこと」自体に楽しみを持ち続けたいというなら、無理に描くことはやめて、楽しいと思えるときだけ描くようにしましょう。
その代わり、ビッグウエーブについていけなくなったことへの寂しさや、焦り、描いてないのだから当然感想がもらえないことに対しては、我慢するしかないのです。
このように創作にはいろんな楽しみ方があり、同時に様々な苦しみがあります。
創作の楽しみは「描くこと」なのだから、それが苦しくなったらやめるべき、流行りに乗ったり、ちやほやのために描くのは間違っている、というわけではありません。
「金やちやほやのためにマンガを描かない」というのも、岸辺露伴先生個人の考えであり、創作者は全員そうであれ、というわけではないのです。
まずは、あなたの露伴先生が、何のために描こうとしているのか、今一度問い直してみた方が良いでしょう。
二次創作の絵を描いています。私は描くスピードが遅く、今までは自分のペースで楽しんでいました。しかし、最近人気ジャンルにはまり、滝のように流れるTLをみて自分もその波に乗りたい! 描きたい! と思いつつも、なかなかそのスピードに追いつけないことが悔しくなってきました。今まで通りマイペースに楽しめばいいと頭ではわかっていても、焦ってしまい、逆にうまく絵を描けなくなっています。
カレー沢さんはお仕事などで、周りのスピード感にストレスを感じたことがありますか? こういう気持ちにどう対処すればいいか教えてください。