「サ終」がこわい。でも推し・情熱・コンテンツが揃った状態は奇跡/カレー沢薫の創作相談

「サ終」がこわくて推し事が楽しめない
パンドラが開けた箱からあらゆる災いが解き放たれ全部オタクに直撃、だが箱の底には「尊」だけが残っていた、というのはギリシア神話でも特に有名な一節です。
趣味というのは楽しみで満たされた世界、つまりジョイフル(not無限ドリンクバーチケットファミレス)であるべきなのに、何故か「ファン活動」という趣味は二次元三次元、なんだったら「俺は直線を推す」という一次元問わず、何かと「苦しみ」がつきものだったりします。
カテゴリ的にはゲロを吐きながら登る登山や、わざわざ罵声や暴力を受けに行くSMに近いものがあり、理解できない人からすると「そんなに苦しいのに何故やる」もしくは純粋に「変態」としか思われなかったりします。
そんな数あるファン活動の苦しみの中で「別れ」はもっともポピュラーなものです。
よく「二次元キャラは死ぬのが玉に瑕」と言われますが、むしろ三次元の推しの方が確実に死にます。
歌丸ニキや希林ネキのように「推しが何十年も活躍し英霊になる直前まで姿を見せてくれていた」という例は稀であり、その間には、解散、脱退、活動休止、引退など様々な別れポイントがあります。
先日別件で、安定した人気を誇るベテラン男性芸能人を20年推している方から「最近推しが髪型を変えたのだが、それがどうにも許容できなくて頭を抱えている」という相談がありました。
小娘じゃあるまいし、20年も推し続けた相手がFカップになったというならさすがに動揺を隠しきれないが、髪型を変えたぐらいでそんなことになるものかと思い、その芸能人の髪型を見に行ったところ「これは!?」とファンでもないのに、頭を抱えてしまいました。
このように20年推し続け、何があっても「まあ俺の推しはこういうヤンチャなところあっから」とライブハウスで後方腕組み彼氏ヅラをしていたファンですら、腕組みしたまま床とキッスするよう自体が起こってしまうのがファン活動です。
お別れ界のニューカマー「サ終」
そんな何個も死にパターンが用意されている、趣味界のファイナルディスティネーションであるファン活動に最近「サ終」というニューカマーがやってきました。
そんなの「最終回」と大して変わらないではないかと思うかもしれませんが「リリース初日に丸パク判明」「バグがスマホを破壊」以外では「集金できれば続き、できなければ終わる」と、終了理由が非常に明確です。
つまり「俺が二兆円課金できれば終わらなかった」とユーザーが無力感を感じやすく、また有名作品のソシャゲ化ではなく、ソシャゲオリジナル作品だと「すでに集金できないコンテンツ」とみなされているため、続編や続報の望みが薄くなってしまいます。
また、漫画やアニメなら終わっても、本やDVDを持ち続けることが出来ますが、ソシャゲだとサ終でデータごと消える場合が多いため、思い出を残すことすらできません。
それが、多額の課金で得た物ならその虚しさは察するに余りあります。
このように、ニューカマーでありながら、辛い別れランキングのかなり上位に食い込むと思われる「サ終」ですが、あなたの場合まだ「サ終」を発表されてもないのに、サ終に怯えて落ち込んでいるという状態です。
しかしまだ死ぬ予定もないのに自分の恋人とかが「お前いつか死ぬんだよな」と言って、一緒にいるときずっと泣いてたりゲロを吐いていたら嫌でしょうし、旅行を提案したときに「そのころお前は死んでいるかもしれないし」と言われたら「そりゃいつかは死ぬけど、今はこのるるぶを読めよ」と思うでしょう。
別れがないものは存在しないし、特にファン活動において「推しが健やかで自分に情熱がありコンテンツ自体も生きている」という状態は非常に貴重なので、その時間を大事にしましょう。
虚しさは「次のこと」を考えて埋める
ですが、あなたの相談文を読んだとき「ネガティブ過ぎんか、終了が決まってもない時点でそこまではならんやろ」と思いつつも、何かその状態に「既視感」というか「身の覚え」を感じました。
何かなと思ったら「連載打ち切りが決まった私」に酷似しています。
正直、漫画家にとって打ち切りというのは寝耳にミミズ千匹小生の愚息も昇天、というわけではなく、ソシャゲで言えば「過去イベの復刻ばかり」みたいな終わる「予兆」は感じているのです。
それでも終わると聞かされた日は、正直立ち上がれません。
そして、終わると決まっても最終回まで書かなければいけないのですが「どうせ打ち切りだし」と思うと「全く描く気がしない」のです。
これは「どうせサ終するし」と同人誌作りに身が入らないあなたと近い状態ではないかと思います。
この「虚しさ」こそがファン活動のみならず、全てのやる気をなくさせる元凶です。
私の場合は1日ぐらい寝込みますが、その内「限られた話数の中で、出来るだけ自分も読者も納得できる終わり方をさせよう、もしくは出版社を爆破しよう」と考え始めますので、あなたもサ終までに推しと出来るだけ良い時間を過ごすこと、もしくは運営を爆破することを考えてください。
そんなの考える心境ではないと思うでしょうが、ソシャゲが死んだ後も、寿命が違う生き物を愛してしまった悲しきモンスターの人生は続くし長いのです。

こんにちは。カレー沢さんのお悩み相談を興味深く拝読しています。
私はあるソシャゲジャンルにいます。審神者でもマスターでも監督生でもなく…細々と続いているマイナーなゲームです。そのため、ソシャゲがサ終するニュースが他人ごとではありません。他のソシャゲでサ終発表があると泣きそうです。フォロワーたちも不安を呟くので『サ終』『サービス終了』をミュートしています。
サ終の不安がストレスになって推しと向き合うことを楽しめないのは本末転倒ですが、ゲームをしながら、推しの妄想をしながら、頭の片隅でサ終のことを考えています。
この同人誌を出す頃にはもうサ終しているかも…夏のネタを描く頃にはもうサ終しているかも…そんな不安を感じながらではなく、もっと楽しく推し事をしたいです。どうすればサ終の不安から逃れられるでしょうか。