「ネットの反応はあるのに本が売れなくてモヤる」しかし買ってくれない人が薄情なのではない/カレー沢薫の創作相談
文/カレー沢 薫
ネットの反応はあるのに本が売れなくてモヤる
この相談にも「イベントでの小説サークルの不遇」に関する悩み度々は送られてきます。
ラノベがタイトルで内容を全て説明しているのも、「一目で興味を引きづらい」という小説の不利を少しでも覆そうとしている面があると思います。
ネットの反応と実売には大きな隔たりがあるのは常識
とはいえ、あなたが本当に抱えている悩みは、販売数というより、オンとオフでの数字の差による虚無感、そしてそのせいで抱いてしまったネット上の読者に対する不信感なのだと思います。
部数アンケが1で実売がゼロだったら、その裏切った1人を探すのに命をかけてしまいそうですが、極端にアンケと実売に差がなければ、販売数が少なくてもそこまで気にならなかったのだと思います。
しかし「ネットの反応と実売には大きな隔たりがある」というのはもはや大前提であり常識です。
私自身の経験からいっても、例えXでバズっても、そこから単行本を買ってくれるのはリポストの100分の1以下です。
もしかしたら「ツリーの最後にアマゾソリンクを貼るだけでは飽き足らず、アフィリエイトをかましている根性が気に入らない」という理由で半分ぐらい客を逃しているのかもしれませんが、それでも買ってくれる人はネットの反応に対してかなり少ないのです。
よって「自分ばかりが調子のイイネット読者に裏切られている」と思うのはやめましょう。全員裏切られてるから気にするな、です。
そのぐらいオンとオフ、というか「無料」と「有料」の間には大きな溝があり、常にモーゼが10人ぐらい横列で常駐しています。商業でも無料公開が当たり前な昨今、モーゼ数は増えるばかりなので、ネットの反応がそのまま実売になると考えるのはやめましょう。
それにしても、アンケで投票しといて買わないのはひどいと思うでしょうし、それはそうなんですが、無料のネット掲載作品が気軽に読めるのと同じで、アンケもタダかつ匿名で、押したからと言って何の責任も発生しないので気軽に押せてしまうのです。
ひやかしではなく、アンケを押した時点では本当に買おうと思っていても、アンケは全裸でバナナを食いながら片手で押せますが、実際イベントで買おうと思ったら、まず人間のコスプレをしてゴリラとバレずに公共交通機関などを利用して、現地にたどり着くという万難に挑まねばならないのです。
ゴリラのまま利用できるアマゾソ直リンですら100分の1まで脱落するのですから、即売会となれば誰も生きてたどり着かなくても不思議ではありません。
イベント売りだけの場合、ネットのアンケ数から確実に何割かは脱落すると思って部数を決めねばならず、そんなユダの数を数えるのは辛いと思うなら、いっそアンケはとらずに今までの販売数などを参考に自分だけで決めても良いと思います。
アンケという形で部数決定を読者に委ねてしまうから、読者に裏切られたという気持ちが発生するのであり、最初から独断であれば、余っても足りなくても、自分の采配ミスなので諦めがつくのではないでしょうか。
実際今までのアンケで自軍数より呂布の方が多いと判明し「アンケは全く当てにならない」とわかっているのですから、そのアンケ結果こそ反映すべきでしょう。
買ってくれない人が薄情なのではない
ネットで「ファンです」とか言いながら金は出さない読者にモヤる気持ちもわかりますが、ネット無料と現地有料では、費やさなければいけないものが段違いであり、人間にとって金や時間や労力は有限な貴重品なので「そう簡単には出せない」のも当たり前なのです。
そんな読者の溶接された財布をこじ開け、無料と有料の溝を埋めてモーゼを大量圧死させるだけの「腕力」が自分の本にはなかったと思うしかありません。
逆に言えば本を買ってくれない読者が薄情なのではなく、万難を排してイベント会場まで生きてたどり着き、金まで出して買ってくれる読者が尊すぎるのです。
アンケだけ押して買いにこない読者に対する憤りや自分の実力不足を嘆くだけではなく、買うと言ってマジで買ってくれた人に対する感謝、そして少数でも買わせた自分を評価してもいいと思います。
それに「ネットの無料分だけ読んで反応をくれる読者」とて、そう簡単に獲得できるものではありません。
この世には、ネットで無料公開していても全然読まれない作品はたくさんありますし、タダでも無反応すぎて、とても有料で売ってやろうという発想に至れない創作者は大勢いると思います。
あなたは無料でそこそこの評価を得ることができて、ステップアップしたがゆえに次の有料の壁にぶち当たったともいえます。
では、その壁はどう超えたら良いかというと、私にもまだわかりませんし、何ならこの壁の前で15年ぐらい立往生しています。
そのぐらい有料の壁は厚いので、越えられなくても仕方ありませんし、逆にそう簡単に越えられても困るので、作品の良さは前提として、本の存在を知られるためのマメな宣伝や、リアイベだけではなく通販やデータ販売など販路拡大をしてみたり、しばらく壁の前で色々やってみてください。
そういうマーケティングを考えだすことで、お金は出してくれなくても無料分を読んで「これ面白い」とSNSでつぶやいてくれるだけの人でさえ「タダで励ましてくれて何だったら無料口コミまでしてくれる神」であることがわかり、いかにありがたい存在かが身に染みるようになります。
カレー沢先生、こんにちは。いつもコラム拝見しております。
私の悩みは「webではそこそこ反応があるのに、同人誌がまったく売れないこと」です。
先日、推しカプのオフイベントがあり、私もサークル参加をして本を出しました。前述の通り、私はwebではそこそこフォロワーもいていいね数ももらえる字書きです。が、紙の本になるといつも想定以上に捌けません。Xに流れてくるフォロイーの「完売しました」を見るたび、もの悲しい気持ちになります。
本を余らせたくはないですがあまり日和りすぎて足りないと言われるのも嫌なので、毎回部数アンケートを取っています。しかしつい先日参加したイベントでは、アンケート結果に従ったにも関わらず半分も捌けませんでした。
捌けないのは己の責任だとしても、だったら何でアンケートに投票するんだろう…と虚無になり、Xで繋がっているフォロイーの調子のいい言葉も「どうせ本は買わないくせに…」と素直に喜べなくなりました。
もう創作自体を辞めたほうがいいのかな、と思いつつ、推しカプのことは好きなので辞めたくない気持ちもあります。
このモヤモヤとどう付き合っていけば良いでしょうか。