イラストレーターへの小説の表紙依頼ってどうやるの?マンガ家&イラストレーター・おしおしおさんインタビュー

取材・構成/羽海野渉=太田祥暉(TARKUS)
近年、可憐なビジュアルが装丁されたライトノベルは、書店の一角でも存在感を示している。またそれと比例するように、ライトノベルのイラストを手掛けたイラストレーターたちの画集も、徐々に刊行点数が増加してきた。
そのムーブメントと連動して、同人小説シーンでも、これまでのように無地の表紙やデザインのみ、友人にイラストをお願いしてライトノベルのような体裁にするだけでなく、人気イラストレーターに直接依頼して、表紙を描き下ろしてもらうというケースも増加してきた。
しかし、そういった事柄にはトラブルも付きものだ。実際、「こういった経緯でこじれてしまった」というツイートを、筆者もタイムラインでよく見かけている。
では、どうしたらそんなトラブルを回避できるのか?
本稿では、商業と同人、どちらでもライトノベルのイラストを担当したことのある、マンガ家・イラストレーターのおしおしお先生にインタビュー。商業シーンでの仕事術を伺いながら、同人小説でのイラストの依頼方法について深くお話を伺った。
おしおしお先生がデビューに至るまで
── まず、おしおしお先生がマンガ家・イラストレーターになられた経緯からお聞かせくださいますか?
おしおしお:私は、昔から絵が描くのが好きだったので、美大に進学したんですね。でも、学生時代はもっぱらデザインや写真の勉強をしていて、絵は趣味程度にしか描いていなかったんです。というのも、美大ですから、周りには自分より絵が上手い猛者ばかりで、私にそういう仕事なんか務まるはずがないと思っていたんですよ。
── デビュー作は、「まんがタイムきらら」さんで連載された『神様とクインテット』ですね。最初からマンガ家になることは志望されていたのでしょうか。
おしおしお:いや、実はそれまでほとんどマンガは描いていなくて……。同人誌では少し描いていたんですが、ガッツリと挑んだという意味では『神様とクインテット』と、同時期に「コミックアライブ」さん(編注:後に「コミックキューン」に移籍)で連載を始めた『さくらマイマイ』が最初でした。
どちらかというと私はイラストレーターになりたかったので、最初にマンガの依頼が来たときは、鳩が豆鉄砲を食ったようになっちゃいましたが(笑)、お仕事を頂けたのであれば挑戦してみようと思って描きはじめました。どちらの担当さんも同人誌やTwitter、pixivを見て依頼してくださったんじゃないのかなと思います。
── マンガをあまり描かれてなかったということは、ご苦労されたのではないでしょうか。
おしおしお:最初は苦労しました! ただ、連載をやっていく中で、お話を考えるのがたぶん自分は好きなんだなと気付いたので、今もマンガ家を続けている……という感じでしょうか。
それに、私に合っているのは、自分が描きたいものをゼロから生み出していくことだと気づいたのが続けられている大きな理由です。なので、誰かと何かを生み出すのが好きという人はライトノベルやソーシャルゲームのイラストを担当する方が向いているのかもしれません。── イラストレーターとして、「こういう仕事がしたい」というビジョンはお持ちでしたか?
ライトノベルイラストの制作フローとは?
── それでは、ライトノベルのイラストについてお伺いします。最初におしお先生がイラストを担当された作品は、『姫さま、世界滅ぶからごはん食べ行きますよ!』です。こちらはどういった経緯で、担当されることになったのでしょうか?
おしおしお:これは若干特殊な例だと思いますが……。『さくらマイマイ』を「コミックキューン」さんで連載していて、そのときの担当さん伝いに、MF文庫Jの担当さんから「こういう作品が出るんですけど、おしお先生描いてくださいませんか?」と連絡が来たんですね。
ただ、このときはマンガを二本同時連載していたので、スケジュールがかなりギチギチだったんです。でも、先ほどお伝えした通り、ライトノベルのイラストを担当するというのは大きな目標の一つだったので、次はないかもしれないと思ってお請けしました。すごく大変だったんですが、楽しいお仕事でした。
── この記事を読まれている読者さんには、ライトノベルのイラストを制作する具体的なフローをご存じない方もいらっしゃるかと思います。ですので、依頼を受けてからの流れをお教えください。
おしおしお:あくまで、私個人の例ということを前提にしていただきたいのですが……。
第1巻の初稿が完成していれば送っていただいて、まずは一度拝読します。後から各キャラクターの設定や容姿をまとめた資料はいただけるんですが、はじめて読む際には、自分でも各キャラクターの特徴や容姿の描写、見せ場になりそうなシーンをチェックして書き出すようにしていますね。そのメモをもとに、キャラクター表を頂いてから、キャラクターのデザインに入ります。完成したら担当さんと作者さんにお渡しして、修正があればその都度対応する形になりますね。
── キャラクターデザイン後にイラストを描かれるんですね。まず表紙から描かれるのでしょうか。
おしおしお:私は基本的に、最初は表紙イラストを描きますね。
編集さんからは最初に「こういう感じの表紙がいいです」とざっくりとした……箇条書きというか、そういうレベルの指示を頂きますが、齟齬が生まれないよう打ち合わせもします。打ち合わせでは、どのキャラクターなのか、背景付きなのか否か、どういう方向性なのかを事細かに伺います。
おしおしお:『異世界堂のミア ~お持ち帰りは亜人メイドですか?~』では、お屋敷があって、主人公のミアが読者側を向いている……というざっくりとしたところから始まって、どういう気持ちでミアはその方向を向いているのかなどを担当さんと打ち合わせをしました。私は必ず担当さんにお会いして打ち合わせをするようにしています。直接会ってその場でラフを描いたり、参考資料を調べたりするのが一番手っ取り早いですからね。
── その後に、カラー口絵、モノクロ挿絵と続いていくのですね。
おしおしお:そうですね。私は表紙イラストの後にカラー口絵の作業に入りますが、これも工程的には表紙イラストと一緒です。モノクロ挿絵については、担当さんから「ここのページを描いてください」と指示が来るんですけど、ここが見せ場だなと感じた箇所があれば、私から「ここも描きたいんですけど」と提案する場合もあります。
私がイラストレーターだからこそ、ここでこのキャラクターを描いたら「絶対に可愛い」と分かっているので、その目線で提案できればという意識からですね。とはいえ、それが採用されるかは別問題なんですが……(笑)。
── キャラクターデザインで最も意識されていることはなんですか?
おしおしお:一番は、そのキャラクターから大きく離れ過ぎないようにということだと思います。あとは技術的な面でいえば、あまりゴテゴテさせ過ぎないことと、色を使い過ぎないことですね。ライトノベルは続巻が前提にあるので、あまりにも作画コストが高いと描き続けるのが大変になってしまいますから。かといって、あまりにあっさりしすぎていても読者さんの目を引かないので、カラーリングで工夫してみたり、足し引きのバランスを意識したりして、デザインをしています。
これはライトノベルに限らない話で、最近私がやらせていただいたVtuberの天音かなたちゃんのデザインでも、これさえあればこのキャラクターだというアクセントを意識して入れました。天音かなたちゃんは天使のキャラクターなので、頭に星型の輪っかを付けて、その輪っかを見れば天音かなただと分かる……そんなように意識しています。ガガガ文庫さんから刊行された『俺の立ち位置はココじゃない!』でも、髪型にアホ毛を入れたりして、このアホ毛はこの子と一目で分かるように心がけました。
── これまで手掛けられたライトノベルの表紙イラストで、おしお先生自身最も手応えがあった作品を伺っても……?
── おしお先生はマンガ家でもありますが、ライトノベルとマンガでは表紙イラストを描く際に意識していることは異なりますか?
おしおしお:全く違いますね。一次創作であるマンガはゼロから生み出すものですけど、ライトノベルは作者さんが書いてくださった作品に花を添える作業です。どっちも絵を描くという意味では一緒なんですが、前者は自分の描きたいように、後者は求められているものを描くという、似ているようで全くの別物だと思っています。
なので、ライトノベルは読者さんに加えて、作者さんにも喜んでいただけるようなビジュアルを目指して描くことを心掛けていますね。ですから、「ばっちりです!」とか「可愛いです!」とか反応をもらえると、とても嬉しいです。同人小説のイラストを依頼する方法
── さて、近年同人小説でも表紙イラストをプロの方に依頼するという事例が増えてきています。おしお先生がもしご依頼された場合、どういった形が一番理想でしょうか。
おしおしお:私は、自分の得意分野で依頼してもらえるのが一番かなと思います。
『失恋文庫 書き下ろし失恋小説アンソロジー』という同人誌の表紙イラストを担当したことがあります。元々、私が同人誌で女の子の泣き顔を描いたものを作っていて、それをご覧になった担当さんが「泣き顔といえばおしお先生なので是非」と熱いメールをくださったんですね。『失恋文庫』はテーマも面白そうでしたし、私のこの能力が求められていると分かったので引き受けさせていただきました。そういう熱い気持ちが伝わるといいんじゃないのかなと思います。
例えば、「○○さんみたいな感じでお願いしたいんですけど」と依頼されても、だったらその人に依頼したらいいのにってモヤモヤしちゃうじゃないですか。だからこそ、この人だから頼みたいんだ、っていう熱量を伝えることが第一なんじゃないかなと思います。それは商業にしても、同人誌にしても、どちらでも言えることですけど。
── 同人小説ですと表紙イラストのみのようなパターンも多いと思いますが、その場合どういった資料が必要になるでしょうか?
── どういった関係性なら依頼していいのか、どれくらいの報酬でいいのか悩まれている方もいらっしゃるとは思いますが、その点に関してはいかがでしょうか……?
おしおしお:それこそイラストレーターさんと依頼者さんの関係性によって変わってきますから、正直なところ、正解がないと思います。例えば、友だち同士なら気軽に依頼もできますし、報酬に関しても「ご飯一回奢るから」で済むかもしれません。でも、人によって引き受ける条件や値段は違うので、一概にこうとは言えませんよね。
ただ、同人案件に限って言えば、商業よりも条件や報酬面は、トラブルになりやすいと思っています。なので、依頼する時点で報酬の金額やスケジュール、どれくらいのクオリティが求められているのかを文章という形でメールに書いておくことが重要ですね。文章が残っていれば、後々トラブルになりにくいと思います。
報酬に関しても、素直に「こちらの予算はこれくらいなので、いかがでしょうか?」とか「相場が分からないのでお教えいただけますと幸いです」とか、聞いてみるのが一番です。会社間ではなく個人間なので、そこを払拭できるやり取りができるのが最善ですよね。

── スケジュールや報酬についても、最初に依頼であらかじめ伝えておく。
おしおしお:そうですね。そういう意味では『失恋文庫』はとてもありがたかったです。最初のメールの時点でスケジュール感と報酬金額、企画書、そしてイメージに合致しているpixivの画像リンクを一式送られてきたんですよ。
依頼が2018年11月で納品が2019年6月だったんですが、「三か月後にイベントまでにこれを描いてください!」だと依頼が埋まっていて請けられないケースが多いので、スケジュールが明確、かつ余裕をもって依頼をしてくださるのは大変ありがたいです。実際、その時点から「この時期なら空いているから請けられるかな?」みたいな逆算もできたので。

── 合同誌の表紙イラストの依頼トラブルが定期的にTwitterなどに上がっていますが、そういうことを先行してやっておくとトラブルも回避しやすいんですね。
── 描き込む量の指定も明示していた方がいいということですよね。
おしおしお:そうですね。例えば表紙イラストの経験のない方に依頼するというのであれば、その方のイラストを提示するとか、「こんな感じです」と明記したほうがよりよいと思います。描いたことがある方でも、背景有りなのかなしなのか場合によって異なりますから、すり合わせの意味で、イメージの共有した方がいいことは間違いありませんね。でも、その指示が細かすぎても描く側がてんやわんやになってしまうので、想像の余地が働く部分があるといいと思います。
あと、何よりも感謝の気持ちですね。人に依頼をするからには「お願いします」「ありがとうございます」みたいな、人として大事なところは、きちんと踏まえたほうがいいのかなと私は思いますね……! そこでトラブルになってしまった知人のことも知っているので、それだけにそこは本当に重要なポイントだと思います。
── 気をつけたいと思います。本日はありがとうございました。
本日7月17日『しかのこのこのここしたんたん』1巻が発売!
今回お話を聞かせてくださったおしおしお先生の最新刊が発売!
元ヤンの過去を隠し、優等生として高校デビューした虎視虎子の前に現れた、ツノが生えた少女(?)・鹿乃子のこ。日常を乱しまくるのこに負けず、虎子は優等生のイメージを守りきれるのか?
おしお先生に送ったイラストの指定
・黒髪の女の子(ブレザーの制服姿)
・秋の夕焼けを背景として、足元に葉が落ちている
・「失恋」した/する前の表情