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  • 浮世絵から現代のイラストレーターまでを貫く感性とは?NaBaBaが目指した「令和の浮世絵」【令和妙心寺六景】
インタビュー
2022.11.23

浮世絵から現代のイラストレーターまでを貫く感性とは?NaBaBaが目指した「令和の浮世絵」【令和妙心寺六景】

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京都・妙心寺 退蔵院で2022年11月23日(祝)から12月4日(日)まで開催しているアート企画『令和妙心寺六景』。


妙心寺にまつわる6つのモチーフを6人のクリエイターが描く本企画にて、「七堂伽藍」のテーマを担当するNaBaBaさんに制作エピソードをお聞きしました。

NaBaBa
  • NaBaBa
  • ネオンカラーを取り入れたキャラクターイラストで、ゲーム業界を中心に活動。『ゼノブレイド2』(モノリスソフト)コンセプトアート、京都芸術大学イラストレーションコース教員など。

  • pixiv
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自分の作家性を出して取り組めるクライアントワークはありがたい

── 本日はインタビューよろしくお願いします。まず最初に今回の「令和妙心寺六景」のお話を聞いてどういった印象をもちましたか?

時が来た。そう思いました。


私のイラストレーターとしてのキャリアは10年を超えますが、自分の作家性を前面に出して取り組めた仕事はそれほど多くはありません。


イラストレーターは基本的にはクライアントワークですので、原作者やクライアントの意向に沿う必要がありますし、コンテンツのイラスト案件となると、自分の作家性というよりコンテンツそのものを立てるのが最優先。少なくとも私のこれまでの仕事の多くはそうでした。


今回の案件も基本的な立て付けは同じで、妙心寺さんの魅力をイラストで伝えるのが最大のミッション。一方で、by nameのご依頼でしたから、イラストに自分なりの付加価値、言うなれば作家性を加える事も期待されていると理解しました。これはまたとない機会ですよね。

── 最初にご相談させていただいたときに、何か和風のコンテンツを考えていたというお話しを聞きました。

私は元々あまり和の要素と密接に関わってきた作家ではありません。
美大の油絵科出身ですし、趣味趣向も西洋派ですので、和に対しては比較的距離をとってきたというのがこれまでのキャリアでした。


ただ、ここ数年自分のスタンスを改めていくべきではと思案していて、実はこの企画を引き受けるまえから、個人の創作活動として和というテーマを独自解釈しながら取り組もうと考えていました。この個人制作は、まだ皆さんの前に直接お出しできるものではないものの、今回の作品の中に成果の一部は取り入れています。


今回の妙心寺さんの案件は、私のこの様な取り組みとシナジーが起きそうだと感じたのも、お引き受けした理由の一つです。

取材で得られる膨大な情報を作品にフィードバック

── 今回の企画では京都の妙心寺で現地見学をしながら構想を練っていただきました。取材の印象やエピソードを教えてください。

こういった企画案件で取材を組ませていただくのは初めてで、キャリアを通して見ても滅多にない経験でした。

取材中のワンシーンより

自分のキャリアの長い時間を費やしたゲーム開発においても取材に行くことはそうそうありません。ほとんど想像やネットで集めた資料で世界観を構築する、いわば机上の空論で済ませていたわけです。

取材中はあらゆるところで撮影をしていたNaBaBaさん

だからこそ今回の取材は貴重な機会でしたし、ぜひ活かしてやろうという気にもなりました。
具体例を挙げていくと、妙心寺さんのスケール感をしっかり味わえたのが良かったですよね。
こちらが取材に行く前に試しに描いたラフです。
このときは、Googleストリートビューを参考にしながら描いたのですが、スケール感が全くわかっていなかった。実際に現地に行ったら、敷地もお堂も想像以上に大きかった。これはぜひ作品中にフィードバックしなければと思いましたね。

まだ建物の大きさの把握が出来てない状態で制作された企画初期のラフ

もう一点は、「七堂伽藍」(しちどうがらん)という、私が受け持った題材とも深く関わる話になります。


今回の取材によって、妙心寺さんというお寺が典型的な宗教施設、あるいは観光地としてのみの空間ではなく、地域の方々の日常生活に密接に関わっている場所だということを知れたのが、何よりも良かった。


たとえば取材中に、地元の学生やお子様連れの方たちが、まるで一般道の様に敷地を横断している所に出くわしたんです。それも何度も。
また我々のような観光客ではない、恐らくは近所の方々がお堂の石垣に座って語らい合っていたり、スマホをいじっていたりと、地域の憩いの場という印象も受けたんですね。


他の5名の作家の題材が、観光地としての側面が強めというのも伺っていたので、私の「七堂伽藍」というテーマは観光地としては勿論、日常風景としての側面も含んだものとして打ち出したいと考えました。

── お話を聞いていると取材旅行を設定できてよかったです。

間違いないですね。
現地に行ったことで得られる情報はものすごい密度でした。こちらこそ設定いただけて良かったです。


もうひとつエピソードをお話しすると、真夏のすごい気温のなか、妙心寺をカメラ片手に歩き回っていたら、不意に「お兄ちゃん、なんか取材に来ているの?」と、ベンチに座って涼んでいる方から声を掛けられたんですね。


しばし雑談する中で、妙心寺さんが地域の方々の交通路になっていたり、憩いの場にもなっているということを裏付ける話を聞かせていただけました。
それからどれだけ話し込んだでしょうか。


「そろそろ時間なので」とお開きにしようとしたら「もうすぐ鐘鳴らすから聞きにおいでよ」と引き止められてしまったのです。
戸惑いながらよくよく聞くと、実はその方は妙心寺の定刻の鐘を鳴らす方だったんですね。単に夕涼みに来ているだけの人ではなかったわけです。


私は慌てて他の作家さんに声をかけて、みんなで鐘の音を間近で体験させていただきました。正に取材でないと得られない貴重な体験で、この方も私の作品に描き込ませていただいています。どこにいるかぜひ探してみてください(笑)。

オーダーに応えるため試行錯誤の上、生みだした制作手法

── 今回のNaBaBaさんのお題は「七堂伽藍」です。このテーマについての印象を教えてください。

まず「七堂伽藍」という言葉自体が聞き慣れない言葉でしたので色々調べましたね。
お寺を構成する三門・仏殿・法堂・庫裡・僧堂・浴室・東司を指すそうで、妙心寺さんでは広大な敷地にこの七堂伽藍が一直線に並んでいるのが大きな特徴だそうです。

書道アーティスト・原 愛梨氏による題字

そのうち代表的な三門、仏殿、法堂を一枚のA版横サイズに収めてくれないか、というのが今回のオーダーだったわけですが、「おいおいマジかよ」と思ったのが正直なところです。


Googleストリートビューで確認したときから広いなと思っていましたが、相当な距離のある3つの巨大な建物を1枚の横位置の画面に収めるのは、特殊な方法を使わないと不可能です。


取材前に色々議論させていただき、ドローン空撮はできるか確認していただいたのですが、これが諸般の事情で難しい。そこで最終的にたどり着いたのは強烈な魚眼パースをかけて、三門から法堂までを1枚に収めるというアイデアでした。


これは技法的に大変高難度で制作中は何度も後悔しましたが、結果的には後ほどお話しする「令和の浮世絵」というコンセプトにもつながり、良い方向に働いたかなと思いましたね。

── この魚眼パースについて「後悔した」とただならぬお言葉がありましたが、どのような苦労があったのでしょうか。

まず、お堂の構造それ自体が大変難解です。
瓦などのディテールが織りなす幾何学的なパターンと、屋根の緩やかな反りが生む有機的な曲線。これらの複雑な融合体なんですよね。これを魚眼パースで通して見ると、全体が歪み、ますます正確に描くのが難しくなる。なのでなるべく写真素材を下敷きにしたかったのですが、それとて容易ではない。

取材中に撮影したパノラマ写真

取材中にパノラマで撮影していただいたのですが、これでもA版に収まりきらないんです。どうやればもっと大きく歪んだパースを、正確且つ省力で描けるのか。

Googleマップの空撮撮影からだいたいの3Dデータを作成

そのデータに取材中の写真を統合して精度を上げていく

そこで私が取ったアプローチは、3Dで敷地と建物とを組み上げて、それを素材にすることでした。


まず、Googleマップの航空写真を下敷きにして、3Dソフトで敷地の上に建物を配置し、だいたいの図面を起こしました。建物の高さは人間の身長と対比させて何人分だから何メートルだな、という具合で……。


これで3D上である程度の粒度で「七堂伽藍」のラフモデルを組めました。
併せてカメラ位置やライティングもこの段階で検討し、レンダリングした画像に取材で撮影した写真を切り貼りすることで、レイアウトの基礎が出来上がりました。

── お聞きしているとこの時点で非常に特殊な作り方をされているようですが……。

私は元々ゲーム業界で働いていた人間なので、3Dソフトを使ってラフモデルを構築するのは馴染みがありますし、現代は3Dを使うイラストレーターさんも増えてきて、私のようにラフにとどまらず、本格的に作り込む人も決して珍しくはありません。

最終的には緻密な手作業で線画を描いていく

魚眼パースを使ったことで各パーツが微妙に歪むため、線画作業は難航を極めたという

今回、Googleマップの空撮データからラフモデルを作ったことは我ながら妙案だったと思います。妙心寺さんの建物の大きさや位置関係を少ない誤差で再現出来ましたし、ここまでの作業の大幅な時短になりました。


しかし、この先の線画からは完全に手作業でしたので、結局泥臭くて、想像を絶する時間がかかったことは強くお伝えしたいと思います(笑)。

NaBaBaさんが目指した「令和の浮世絵」

── コンセプトの「令和の浮世絵」に至った経緯をお教えください。

まず、妙心寺さんという京都の名所でのアート展ですので、お客さんは私のイラストをご覧になる層とは異なると考えました。


普段の私の画風では上手く共感いただけないんじゃないかと思いまして、京都が好きで寺社仏閣に興味がある、そんなお客さんの最大公約数的なミームとして「浮世絵」を仮定しました。
「浮世絵」であれば日本人ならビジュアルイメージは周知のことでしょうし、海外の観光客にも伝わりやすい様式ではないかと。

── “令和の”という部分については?

ただ、だからといって17世紀以来の伝統的な浮世絵像を再現するだけでいいのかというと、そうではない。
かつて一世を風靡した浮世絵が表面上は廃れたのは、大衆アートのトレンドの移り変わり、自然淘汰の結果だと考えます。相応の理由があって捨てられた様式な訳です。


そんな浮世絵を懐古趣味的に持ち出すのではなく、我々は何を捨て、何を受け継いでいるのかを解き明かさなければいけない。浮世絵的でありながら、2022年の令和の今という時代を反映したイラストレーションを提案しなければ、と考えましたね。

── どのようなアプローチを取られたのでしょうか?

まず、私は肉筆画と呼ばれる浮世絵の源流から、葛飾北斎や歌川広重といったみんなが知っている浮世絵の典型であり完成形、更に幕末から明治以降の浮世絵の系譜を改めて総ざらいしました。浮世絵が時代に合わせてどのように変化していったかを辿ることで、今回のアプローチの答えを導き出せるのではないかと考えたわけです。


その過程で私が見つけたのは、明治以降の新版画とよばれるジャンルでして、代表作家は吉田博、川瀬巴水になります。

── どのような作家なのでしょうか。

彼らの作品は浮世絵的な木版画の技法に、富士山に代表される名所をモチーフにするという、これまた浮世絵的な画題。これらを継承しつつも西洋美術的な遠近法が取り入れられ、従前の浮世絵とは一線を画しています。


線で縁取って、その中を単色或いはグラデーションで摺り分けるスタイルは変わらずですが、パースペクティブはとても西洋美術的。さらには色の使い方も西洋美術の空気遠近法を意識しており、遠くに行くほど段々とコントラストが低くなっていき、背景の色に同化していく。木版画の技術でこれらをやろうとした結果、ある種とてもポップな仕上がりになっている。


これを発見したときには、もうビビッと衝撃を受けましたよ。


明治以前の浮世絵の面影を残しつつ、今の時代の作家ならば、例えば新海誠さんの作品の背景にも通ずる色彩と空気がある。正に過去と現在の端境とも呼べる作風だったんです。


事ここに至り、私の中で浮世絵の古典である葛飾北斎から新版画の吉田博、80年代のポップアートの旗手・鈴木英人さん、2020年代の新海誠さんをはじめとする数々のイラストレーター……これらのアートの系譜が、妙心寺の「七堂伽藍」のように綺麗に一直線に並んだわけです。

本作のために事前に令和の浮世絵となる塗りについてテストを繰り返したという

現代のイラストは浮世絵のスタイルから表面上はかけ離れて見えますが、それは更新され、進化し、それでも受け継ぐべきものは受け継いだ結果であると。


我々日本人の感性の地下水脈には、江戸時代の頃から、或いはもっと前から変わらず流れている水があるのだと確信しました。これは今回の制作の過程、浮世絵を総ざらいしているなかで気づいた、とても大切な知見でしたね。


自分という現代のイラストレーターが改めて浮世絵に取り組む必然、このアート展で取り組む必然が見いだせました。浮世絵の伝統を再検証し、ある部分は再現し、またある部分は新版画がそうしたように更新し、今の時代だからこその更なる改良も行う。


そうすることで、これまでの浮世絵と現代のイラストとを統合し、これからの時代の新たなスタイルを提案してみせようではないか。それが私が今回の作品で挑戦したことです。

イラストに込められた様々な意味を見出す

『七堂伽藍』Art by NaBaBa

── イラストには多くの登場人物が存在し、同時に多くのテーマを内包していると感じています。見所を教えてください。

私のイラストが他の方々の作品と比べて決定的に違うところは、ご指摘の通り登場人物の多さでしょう。


当然他の参加されている作家さんはビッグネームですから差別化したいという下心もありましたが(笑)、浮世絵の伝統的な型のひとつ、「名所画」に倣ったからでもあります。所謂観光スポットとそこにいる人々の日常生活をセットで描くというものですね。


その型に則り、取材させていただいたときに肌で感じた、妙心寺を取り巻く現代の人々の日常生活やドラマを描こうと思ったわけです。


そのためには“雨上がり”というシチュエーションが鍵になります。


これは浮世絵を総ざらいしていて感じた日本人の一貫した、水たまりに映る景色といった「映り好き」を踏襲する狙いもあるのですが、それ以上に“雨上がり”という軸を設けることで、一見バラバラな登場人物達を包み込み、絵全体を貫く物語が描けるのではと考えました。


雨が上がったこの瞬間に、それぞれがどういった仕草なり行動をとり、感情を抱いているのか。
是非これらを想像しながら鑑賞して頂きたいと思います。

水たまりに反射する光、閉じた傘、待ち合わせをする学生達に様々な意味を感じる

また、今という時代を描き表すために、絵に象徴性を与えたいとも考えました。


これは個人によって感じ方は異なると思いますが、2020年からの日本を含めた世界の状況は、言うなれば雨がザーザー降りだった訳じゃないですか。未曾有の土砂降りだったと私は感じています。


ところが一般的にイラストレーションは現実の世知辛さとは切り分けて描かれるものです。クールでキュートでエモい、そういったものをユーザーさんも求めていますし、クライアントも求めている。そこに少々込み入った思想を混ぜてもノイズにしかなりません。


ただ、私のイラストレーター、というよりも作家としてのエゴ、使命感としてはこれらを分裂したままにはしたくない。鬱屈したリアルから目を背けず、それでもなお前向きに生きていく勇気と決意を伝えたい。


幸い2022年の終盤にして、世情は一時のカオスを抜け、ようやく晴れ間が見えてきた気がします。その安堵感を表したかった。だからこのイラストは“雨上がり”であり、“夕焼け”なんです。


しかし、ここまで来るのに随分と時間が掛かってしまいました。もうすぐ日が落ち、夜を迎える。夕焼けは刹那的で美しいが、その次に来るのは闇なわけです。雨は上がったが、その先に待っているのは楽観的ではいられないビターな現実です。

イラスト左上には上弦の月がうっすらと見える

ですが、イラストの左上を見て下さい。
月が昇っています。それも上弦の月、これから満ちていく月なんです。
たとえ日が落ち、闇夜に覆われても、満ちる月があれば照らす光もあるのではないか。そうであるからには、我々は月明りを頼りに、考える葦として、めげずに前に進み続けなければいけません。


このメッセージを、どうかイラストから感じ取っていただければ、この上なく嬉しく思います。

── 最後に「令和妙心寺六景」に興味をもってくれた人にメッセージをお願いします。

今回、私のイラストは横2.6万ピクセルという巨大なサイズで制作しました。
なぜこんな高解像度で描いたのか。


それは近年のイラストで重要視されている解像度感をしっかり出したいという意図であり、それが「令和の浮世絵」を実現する方法の一つだとも考えたからです。
2.6万ピクセルを実寸大で出力できるディスプレイは一般的ではありませんが、展示されるものはA2(横594×縦420mm)の印刷物になるため、非常に細かい部分まで表現できるようになります。


現地に行かれる方は、イラストの解像度の高さ、そして私が作品の中に込めた想いを感じ取っていただければと思います。

京都・妙心寺 にて「令和妙心寺六景」開催中

妙心寺にまつわる6つのモチーフを、6人のクリエイターが描く「令和妙心寺六景」が2022年11月23日より開催!


紅葉彩る秋、京都・妙心寺 退蔵院でお待ちしています!


場所:退蔵院内 大休庵(茶席)
   〒616-8035 京都府京都市右京区花園妙心寺町35
会期:2022年11月23日(水・祝)〜12月4日(日)
時間:9:30~16:30(拝観は9:00~17:00)
拝観料:拝観料:600円(別途、お茶代500円が必要です※)


※「令和妙心寺六景」をご覧いただくには、退蔵院の拝観料のほかに別途お茶代(500円・お茶菓子付き)が必要です

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