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  • 「現実にあるもの/ないもの」を組み合わせる。背景画アーティスト わいっしゅが語る 魅力的な世界の描き方
インタビュー
2022.11.04

「現実にあるもの/ないもの」を組み合わせる。背景画アーティスト わいっしゅが語る 魅力的な世界の描き方

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インタビュー/原田イチボ

背景画アーティスト・わいっしゅさんの個展「Into the worlds」が、東京・表参道にあるpixiv WAEN GALLERYにて2022年11月23日(水)まで開催中です。新作描き下ろしを含むオリジナルイラストや、過去に手掛けた商業イラストなど約60点が展示されます。さらに、アニメや映画音楽で活躍する作曲家・井内啓二さんによるBGMが作品の世界観を彩ります。

わいっしゅさんは、3Dソフトを駆使してイラスト制作を行っています。「キャラを描くのは好きだけど、背景は苦手」という人は多いはず。わいっしゅさんに創作のヒントを聞きました。

わいっしゅ
  • わいっしゅ
  • 背景画アーティスト。エンバイロメントアーティスト。名古屋大学大学院工学研究科修了。専門は物性物理学。半導体エンジニア、パテントエンジニアを経て、2015年ごろからアーティストとして活動。現在は、ゲーム開発におけるコンセプトアートや背景アートの制作をメインに、ライトノベルや文芸誌、企業や自治体のイメージアートなどを手掛ける。

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もともとはキャラがメインの絵を描いていた

── 本日はよろしくお願いいたします。子どもの頃からキャラクターより風景を描くのがお好きだったのでしょうか?

実は風景に限らず、絵を描くこと自体が昔から好きだったわけではないんですよ。アニメやマンガにのめり込んだ経験もなく、むしろ全然縁のない世界でした。ただ、ゲームの有名タイトルには触れていたので、何か好きなゲームができたら、それ関連のイラストをお遊びで描く程度はたまにしていました。

── では本格的に絵を描くようになったのは、いつ頃なのでしょうか?

社会人になってからですね。たまたま書店で「こういう本もあるのか」と初めてライトノベルを手に取ったのをきっかけに、いわゆる美少女イラストに興味を持ち、自分でも描いてみるようになりました。

── わいっしゅさんのpixivアカウントを見ると、初期の投稿は女性キャラクターメインのものが多いですよね。そこから背景イラストにシフトしていったのはなぜですか?

イラストに膨らみを出そうと背景も描き込むうちに、むしろキャラクターよりも背景のほうに適正があることに気づきました。考えてみれば、『提督の決断』や『三國志』などのゲームにハマってイラストを少し描いていた時期も、キャラよりお城や軍艦を描くことが多かったんですよね。

夏祭り

by わいっしゅ

── そこからどのようにプロになったのでしょうか?

しばらくはpixivでやっていたイラストコンテストに応募していました。ですが、結果的には人とのご縁でお仕事を得ることができました。クリエイター同士の交流会で出会った方から、ゲームの背景画の仕事をいただけたんです。

── しばらくは兼業イラストレーターとして活動していたんですよね。

はい。イラストレーターとしての収入が会社員としての収入の倍近くになったとき、思いきってゲーム会社への転職活動を始めて、イラストのほうを本業にしました。今は企業に所属して背景の仕事をしていますが、引き続き個人宛の案件も受け付けています。

まずは印象的なシンボルを考える

── 背景画を描くにあたって、まずは印象的なシンボルを考えるそうですね。そのアイデアはどのようにひらめくのでしょうか?

3D空間上であれこれ試すうちに、アイデアが固まってくることが多いです。たとえば、本来なら安定しているものを不安定に配置してみたり、ひとつひとつは普通の要素を縦方向にガチャッと重ねてみたり……。

『御神体守の街』という作品を例に説明してみますね。とりあえず地形から作り始めて、「中央に巨大な岩がそびえ立っていると神秘的なんじゃないか」というアイデアが浮かびました。その岩を祀るものも必要だろうと考えて、岩の周辺に街と神殿を作りました。

── 細長い島が隣接していて、『御神体守の街』は奥に見える風景も不思議な印象ですよね。

実は宮城の松島とか、現実にもこれに近い地形は存在するんですよ。特にロケハンのようなことを意識しているわけではありませんが、私は旅行が好きなので、自然と創作のためのインプットになっているんだと思います。

── わいっしゅさんは魅力的な背景画を描くための方法論として、「現実にあるもの」と「現実にないもの」の組み合わせや、その世界の「文化」と「エネルギー」を考えるそうですね。

はい。「現実にあるもの」をベースに「現実にないもの」を効果的に加えることで、リアリティをもって空想の世界を表現することができます。また、非現実の世界を描くとき、文化やエネルギーについて想像することは、デザインの取っ掛かりにもなります。例えば西洋風の宮殿という「現実にあるもの」を浮遊させて、空中都市という「現実にないもの」と組み合わせる。では、その空中都市を成立させているエネルギーは魔法なのか、それとも電気なのか、空中都市の住民たちはどの程度便利な暮らしをしているのか……のように思考を組み立てていくイメージですね。

── なるほど。「現実にあるもの/ないもの」、「文化」、「エネルギー」を切り口にして、だんだんイメージを固めていくんですね。

高校、大学と理科系の学問を学んだこともあり、「自分のデザインにどう理屈をつけるか」みたいなことを自然にやる癖がついています。それが設定における現実と非現実のバランスを調整する上で良い方向に働いているのかもしれません。あとは、これまで触れてきたゲームや映画の知識も、思考のベースになっていると思います。特に「ファイナルファンタジーシリーズ」の初期作品から受けた影響はかなり大きいです。

3Dと2Dを混ぜ合わせて「わいっしゅらしさ」を生み出す

── 制作フローを教えてください。

最初に作品のシンボルを決めた後、シンボルを際立たせる要素も検討します。次にそれらを3DCG作成ソフト・MODO(モド)でモデリングします。

何に使うかは言えないけど、モデリング中 pic.twitter.com/ZW9fIi7yq0

— わいっしゅ@個展11/2~23 (@yyish) November 20, 2021
モデリングしたデータは、VUE(ビュー)というソフトで配置します。レイアウトとカメラ位置が決まったら、VUEでレンダリング(3Dデータから2Dデータへの変換)をして、Photoshopでレタッチします。

レンダリング直後の状態。レタッチを加えて、わいっしゅさんらしい作品にしていく。(画像提供:わいっしゅさん)

── 工程で特にこだわるところはどこですか?

ライティングには時間をかけています。『いつもの散歩道』という作品は、同じ景色で昼バージョンと夜バージョンの両方を制作しました。夜バージョンは、単に昼より暗いだけではなく、階段のところに反射を加えたり、街灯にグロー(ぼかし)をかけています。気温が下がったことで湿度が高くなり、物体の見え方にも変化が起きたというイメージですね。太陽の位置によって大気も変わるので、それらの整合性も鑑みてライティングを決めています。イラストを描くようになる前はカメラが趣味だったこともあって、構図やライティングに対するこだわりは強いほうだと思います。

── レタッチで意識していることは何でしょうか?

3Dデータを2Dに変換した直後は、「いかにも3Dで作りました」感がまだ強く残っています。そこに手を加え、「わいっしゅの絵」に落とし込んでいく感覚で作業しています。自分としては、3Dと2Dを渾然一体とさせた作風が「わいっしゅらしさ」なのかなと考えています。拙著の『わいっしゅ ファンタジー・SF背景作品&メイキング』(玄光社)を読んでいただければ、手法自体を真似することはできると思いますが、どんなバランスで3Dと2Dをまぜこぜにするのかで、それぞれの描き手の個性が表れそうですね。

『わいっしゅ ファンタジー・SF背景作品&メイキング』では、わいっしゅさんの作品に加えて、制作過程やその背景にある考え方なども詳しく知ることができます。

── 3DCGソフトウェアにMODOとVUEを選んだのはなぜですか?

VUEを選んだ理由はすごく単純で、「背景 3D」などで検索したときに最初にヒットしたツールだったからです(笑)。MODOはモデリングのしやすさで選びました。3ds Max(スリーディーエス・マックス)やMaya(マヤ)といったツールも有名ですが、機能が多すぎて自分の手には負えない気がしたんですよね。簡単かつスピーディーにモデリングできるソフトを探した結果、MODOにたどり着きました。

── 昔は2Dでイラストを制作していましたよね。3Dに切り替えるきっかけは何だったのでしょうか?

2D時代は自力で真面目にパースをひいていたんですが、いかんせん性格が細かいもので、「正しくしなければ」と思いすぎてしまうんですよね。感覚で掴みにくいパースはきちんと計算式を作ったりして…。でも「それを自動でやってくれるのが3Dツールなのでは?」と思うようになって今に至ります。私はもともと描く過程それ自体に楽しみを覚えるというよりは、「頭の中にあるイメージを早くアウトプットしたい」というタイプなんですよね。だから便利なツールがあれば、どんどん活用していきたいと思っています。

── では、画像生成AIなどの利用も考えますか?

ネット上で「背景はAIに描かせればいいじゃん」のような意見を多く目にして、背景画アーティストとしては悩ましい存在ではありますが、自分も部分的にAIを使ってはいます。たとえば喫茶店を描くときに、置かれているメニュー表にはAIを使ってみる、とかですね。細かく文字が書かれたものを描くのは大変ですし、メニュー表が読める必要もないので。「効果的に使えるものは全部使いたい」という気持ちがあるので、細かいところで部分的に活用しています。

依頼時はマスト要素とウォント要素を明確に

── 背景画アーティストとは、どんなお仕事なのでしょうか?

仕事の大枠はキャラクターをメインとするイラストレーターの方々と変わりません。クライアントさんと何度かやり取りしながら、相手の求めるイメージに作品を近づけていきます。作品の世界観をイチから視覚化するコンセプトアート的な案件もあれば、すでに設定がしっかり決まっている作品であくまで背景だけを担当する案件もあります。こちらが想像力を発揮する余地は、案件によってまちまちです。

── クライアントとのやり取りで気をつけていることは何でしょうか?

指示書や仕様書をもらった後、その通りにすぐ作業を進めないことです。同じ単語だとしても、それが指すものに対するイメージは、自分とクライアントのあいだで絶対にズレがあります。お互いのイメージがズレたまま作業しても良い結果にはならないので、必ず打ち合わせをして「ここにはこう書いてありますが、こういう認識でいいですか?」と細かく確認します。

── イラストを発注する人に向けて、「このように発注してくれると助かる」というリクエストはありますか?

「絶対これは入れてほしい」というマスト要素と、「できれば入れてほしい」というウォント要素を明確にしていただけると助かります。あとは、「なぜそのような指示をしているのか」という部分まで説明があるとやりやすいですね。「学校の下駄箱を描いてください」という依頼だとして、それだけよりも、「主人公とヒロインが出会う場所がそこだからです」と説明があったほうが、良いイラストに仕上がります。これもまた、クライアント側とイラストレーター側が持つイメージを一致させるためのひと手間と言えますね。

── なるほど! 同人誌などでイラストを外注する機会がある人にとっても参考になりそうです。イラストレーターの中でも、特に背景画アーティストに向いているのはどんな人でしょうか?

「背景を描くのが苦ではないこと」はまず前提として、裏方気質というのも大切だと思います。やはりイラストの世界では、どうしてもキャラがメインで、背景はサブ扱いの場合がほとんどですからね。

── つまり「わいっしゅさんみたいに、書籍を出版したり、個展を開いたりできる背景画アーティストになるぞ!」と思って業界に飛び込むと大変……?

私は本当に幸運な例だと思います。でも私自身も有名になりたいと思って業界入りしたわけではなく、あくまで「自分の思い描くイメージをアウトプットすることは楽しい」というのをモチベーションに活動しています。自分の名前をどんどん前に出すよりは、職人気質な働き方を好む人のほうが適正のある仕事なんじゃないかと思います。

今回の個展は、さまざまな世界を旅するように楽しんで

── 個展「Into the worlds」について教えてください。タイトルとメインビジュアルはどのように生まれましたか?

タイトルには、「作品の世界に降り立つような感覚で没入してほしい」という思いを込めました。メインビジュアルは未知のエネルギー生成工場をイメージしており、工場の周りには労働者が住む街が広がっています。冷静に考えたら、火を吹く煙突の周辺に民家があるのは危ないんですけど(笑)、あえてくっつけることで現実感のなさを演出しました。工業地帯特有の狭い路地と、そこから見える複雑に組み上げられた塔状の街のミスマッチを見てもらいたいですね。

── 「現実にあるもの/ないもの」の組み合わせですね。未知のエネルギー生成工場というのは、想像がふくらむ設定です。

私にとってはエネルギー生成工場ですが、もちろん違う想像をする方もいると思います。イメージを固定させるような描き方にはしていないつもりなので、自由に作品を楽しんでください。

── アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』などの音楽で知られる作曲家の井内啓二さんが個展会場のBGMを手掛けると聞きました。

井内さんとは、とあるレコード会社さんの企画でご一緒してから個人的にもお付き合いが続き、「Programmmusik(プログラムムジーク)」という音楽サークルを共同運営していいます。劇伴(作品に合わせて流れる音楽)と背景画には、作品を影から支える縁の下の力持ちという側面があります。その観点で、井内さんとは創作に対する考え方が一致しました。井内さんが作る音楽はファンタジックな要素があるので、私の作品とも親和性が高いはずです。会場では、作品と合わせてBGMもチェックしてもらいたいです。

── pixiv WAEN GALLERYで背景画の展示が行われるのは初めてのことです。

キャラクターをメインとした作品の展示とは、また少し違った雰囲気になっているかと思います。作品ごとに全く違う世界観を感じられるはずなので、さまざまな世界を旅するように今回の個展を楽しんでいただけると幸いです。

── 今後の目標や、挑戦してみたい仕事を教えてください。

近年は文芸書の表紙や、企業や自治体のイメージアートといった仕事もご依頼いただいています。ゲームやライトノベルに普段あまり触れない方々が目にするような媒体でも、いろいろ仕事を増やしていきたいですね。それと同時に、アニメでクレジットが載るような仕事も担当したいです。

11/23(水)まで開催中!わいっしゅ個展「Into the worlds」

pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、わいっしゅさんの個展「Into the worlds」が2022年11月23日(水)まで開催中です。

わいっしゅさんによる見応え抜群の風景イラスト約60点が展示されます。こだわりのBGMと共に、さまざまな世界を旅するような気持ちでお楽しみください。


開催期間:2022年11月02日(水)~11月23日(水)

定休日:なし

入場無料

所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F

営業時間:12:00~19:00


>>pixiv WAEN GALLERY公式HP<<

>>公式Twitter<<

※混雑時は整理券対応をさせていただく可能性がございます。あらかじめご了承ください。


※新型コロナウイルスへの対策について

わいっしゅ個展「Into the worlds」について、現時点では11月23日(水)までの開催を予定しております。今後も状況を注視しながら対応を進めてまいりますが、新型コロナウイルスの感染状況などにより、開催期間に変更が生じる場合がございます。販売商品や来店方法等を含め、運営状況については、随時pixiv WAEN GALLERY公式HP、公式Twitterにてお知らせさせて頂きます。何卒ご理解賜りますよう、重ねてお願い申し上げます。

一部グッズはWEB販売も!

BOOTHにて個展販売グッズの一部をご購入いただけます。わいっしゅさんの美麗な風景イラストを活かしたグッズをぜひご覧ください。



>>BOOTHを見てみる<<

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