ありのままで周囲とうまくやりたい。地に足がついている「女性向け異世界ファンタジー」の世界
構成/直江あき
今大盛り上がりのジャンル・女性向け異世界ファンタジーとは? 作品の特徴や人気の理由、執筆のポイントは?
これまで「comic POOL」にて異世界ファンタジーを手がけ、満を持して新レーベルを立ち上げる編集者、藤原さん、設楽さん、加藤さんの3名にその魅力を聞いちゃいました。
女性向け異世界ファンタジーは「自分はそのままでいい」
── マンガレーベル立ち上げの経緯を教えてください。
藤原:pixivさんとの協業コミックレーベルとして「comic POOL」をやらせていただいていますが、そのなかでも女性向け異世界ファンタジー作品の連載が増えてきて人気を博していることからジャンルの広がりと隆盛を感じ、「comic POOL」の姉妹レーベルとして創刊することになりました。
── 女性向け異世界ファンタジーは今そんなに人気なんですね。
藤原:女性向けコミックとしてはここ4年ほどで急成長しましたね。弊社からノベルとコミカライズが刊行されている『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(以下『はめふら』)を始めとした作品のヒットなどで大きな流れができ、そこから業界の注目度も高まり、商業化のペースアップが進んだと思います。
── 女性向け異世界ファンタジーの特徴ってなんですか?
藤原:男性向けは異世界に転生することで、現実世界では得られないような能力や立場を手に入れて活躍するという形が基本的にあると思います。
一方、女性向けでは、ありのままの自分や持ち前のスキルを活かしていろんな人たちとうまくやっていく作品が多いですね。現実世界の延長的な振る舞いやコミュニケーションによって困難を乗り越え、みんなから愛されていくというパターンです。誠実さやひたむきさがあるからこそ、状況を良い方に変えることができる。そういうところはある種少女漫画的だなと思います。
設楽:逆境から始まる設定が多いのも特徴ですね。破滅ルートや婚約破棄、勝手に許嫁を決められてしまった、というネガティブな状況に置かれながらも、それを即座に好転させていく展開は読んでいてかなり爽快感があります。自分らしさを追求していく主人公が多いのも特徴です。過酷な状況にのまれるのではなく、どんな場所でもとりあえず自分らしくいたらその結果、周囲の人が感化されて集まってくる。「自分はそのままでいい」と感じられるのも魅力だと思います。
── オタク女子が肯定されている感がありますね。
設楽:理想が叶っている感覚を味わえますね。
あとは、先ほど言ったように、不遇な状態から盛り返す勢いやテンポ感があるので、気持ちよく読めるのも人気の理由かと思います。
加藤:なろう系の物語にはある程度のお約束があると思うので、読者も「自分はこの作品が好きだから、こっちも読んでみよう」と、安心して次の作品も読めますよね。そのような安心感もジャンル全体の盛り上がりに繋がっているかと思います。
藤原:そうしたお約束の中でも、作品による違いや個性が楽しまれていくうちに、異世界ファンタジーの世界が深まり、広がっている面もありますね。
令嬢・聖女・中華後宮・和風嫁入り
── 「令嬢・聖女部門」「中華後宮・和風嫁入り部門」と分かれていますが、それぞれどんな特徴や作風などありますか?
藤原:一番人気なのは令嬢もので、先ほど挙げた『はめふら』のような悪役令嬢ものがやはり多いですね。令嬢に次ぐ人気なのが聖女もので、『聖女の魔力は万能です』などが代表的でしょうか。こちらも婚約破棄や追放といった逆境からスタートするのが特徴ですね。中華後宮ですと、例えば弊社からノベルとコミカライズが出ている『ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』(以下『ふつつか』)があります。和風嫁入りだと『わたしの幸せな結婚』が非常にヒットしている作品ですね。
設楽:『ふつつか』は高貴な身分から追いやられてしまう追放ものですが、追いやられてもそこで楽しく生きるというのは他の異世界ファンタジーにも通じるのかなと思います。嫁入りも、最初は自分で望んだ結婚ではなかったけど実はそこに幸せがあったりと、逆境をむしろ幸福に変えていくところは、共通していると思います。
── 中華後宮や和風嫁入りの方が恋愛色が強いのでしょうか?
藤原:そうでもないですね。女性向け異世界ファンタジーでは、恋愛よりも、主人公が周囲のみんなと上手くやったり、問題を解決して自由に生きていくことの方が重要なので、 恋愛の比重はあまり大きくありません。そこは少女漫画とは似て非なるところだと思います。一つ一つのクエストや課題をミッションのような形でこなしていくことで状況を改善したり、一周目や前世で決められたルートを回避して自身のハッピーエンドに向かっていくのは、感覚としてはやはりRPGや乙女ゲームに近いと思います。
ラブストーリーは相手と結ばれるまでの障害やうまくいかない部分が描かれることで多少のストレスもありますが、そもそも恋愛要素がなければ、そこに起因するストレスを感じることもほとんどありません。その辺もこのジャンルが人気な理由の一つかなと。
── とにかく読者にストレスを与えないようになっているんですね。
藤原:主人公には、悩む暇があったら行動に移していくなど、持ち前の明るさやポジティブさも重視されていますよね。現実世界でみんなとうまくいくというのはなかなか難しいですから、異世界というのは理想の世界なんじゃないかと思います。
異世界だけど地に足がついている
── 今回のコンテストのお知らせには、「ハッピーエンディングに向かうものであればOKです」と書かれていますが、商業作品として、他にも好まれるポイントはあるのでしょうか?
設楽:気持ちがいい主人公というのは大事です。行動的で芯があると読んでいて応援したくなりますよね。おしとやかでも自分の意見を毅然と言うブレなさはみんな共通してありますね。
加藤:主人公が自分らしくいられるっていうのが、読者の心を掴むポイントなのかなと思います。
── 異世界ですけど、キャラクターもストーリーも現実的ですよね。地に足がついている。
藤原:現実的な理想だと思います。異世界といっても突拍子もない話というわけではなく、主人公が得ていくもの、読者が求めるものは非常に現実的ですね。執筆するにあたり、その辺りを意識すると良い作品ができるかなと思います。
── じゃあ自分が欲しい世界を書けばいいんですかね。
設楽:自分や読者がこうだったらいいなと思うような世界を描くというのは結構大事かもしれません。
── 「令嬢・聖女部門」「中華後宮・和風嫁入り部門」とジャンルを絞った理由を教えてください。
藤原:対象を絞ってしまうと投稿が減ってしまうというリスクがありますが、漠然と広げすぎるのもコンテストの軸が見えづらくなってしまうかなと思いました。
設楽:レーベルとして今後出していきたい、力を入れていきたいと考えているジャンルを、部門という形で具体的に示してみました。
藤原:おそらく令嬢・聖女部門は応募が集中すると思われるので、中華後宮・和風嫁入り部門はその点チャンスと言いますか、頑張って書いた分受賞する可能性も高くなると思います。
── 今回はマンガ原作小説の募集ですが、小説とは書き方は違うのでしょうか。
藤原:今回のコンテストはコミカライズを前提としているので、やはりコミカライズ映えを意識していただきたいです。読ませるための文章力ももちろん大事ですが、それ以上に魅力的なキャラクターやストーリー展開といったキャッチーさが大事になってきます。
── コミカライズ映えさせるうえで大事なことはなんですか?
設楽:コミカライズする際、原作にキャラクターの個性が描写されていると絵に起こしやすいですね。特徴的なキャラクターは他作品との差別化にもなりますし、 そういう要素が原作からちゃんと拾えると、コミカライズも良いものになりやすいです。
加藤:原作のキャラクター作りがしっかりしていると、「このキャラだったらこういうことしそうだよね」と、コミカライズの時にも広がりができます。
設楽:魅力的なキャラクターを作るためには、どういう行動原理で動いているかを考えることが重要です。
藤原:「このキャラクターはこういう性格だから、こういう時はこういう行動をする」という理由や動機付けですね。加えて、魅力的な部分と共感できる部分を併せ持っているといいですね。遠すぎず近すぎず、憧れの対象だけど等身大でもある、という感じでしょうか。
── コンテストに応募しようか迷っているユーザーの背中を押すようなメッセージをお願いします。
加藤:少しでも興味を持っていただけたなら、応募する一歩をまず踏み出してもらえたらなと思います。ひとつ自分の世界が広がるきっかけになるかもしれません。
気軽に応募していただけると嬉しいです。
設楽:もし応募にハードルを感じている人がいたら、気にせずまず書き上げてみて欲しいです。物語が自分の頭の中にあるうちは、それがどう面白くて、誰を楽しませることができるのかまだわからないと思います。伝わるかどうかは誰かが読んでみて初めてわかることなので、今後創作を続けていく上での一つの良い機会として利用してみてほしいです。
藤原:女性向け異世界ファンタジーは非常にチャンスのあるジャンルです。異世界ファンタジーという、人気があるエンターテイメントの枠組みの中で作品を生めるのは、いい意味で気軽な機会だと思いますし、異世界ファンタジーが好きな方であればなおさら、ぜひ挑戦して頂きたいと思います。
「異世界ファンタジーマンガ原作コンテスト」開催中!
今回、インタビューに出演してくださった一迅社が、女性向け異世界ファンタジーマンガの原作小説を募集中!
大賞作品には賞金30万円が授与されるほか、一迅社新規マンガレーベルにてコミカライズ、一迅社ノベルレーベルにて書籍化されます。
そのほか優秀作品も、コミカライズや書籍化等の検討を予定。
締め切りは2022年1月16日。みなさまのご応募、お待ちしています!