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インタビュー
2020.11.06

聞き出すことが作品になる。実話怪談作家・黒木あるじから学ぶインタビュー術

  • 小説
  • 作家インタビュー
  • ホラー

構成/原田イチボ@HEW

“実話怪談”とは、その名の通り、誰かが実際に体験した怪談を表すジャンルのことです。作家の黒木あるじさんは、実話怪談の旗手として知られ、なんとこれまで集めた怪談の数は約3000。携わった怪談本は単著と共著を合わせて50冊を超えています。


なんと飲み屋で隣り合わせた人から怪談を聞き出すこともあるという黒木さん。初対面の相手からでもおもしろい怪談を引き出すコツとは何なのでしょうか? その秘訣を探るうちに、実話怪談の収集はもちろん、インタビューにも通じるテクニックが見えてきました。

黒木あるじ
  • 黒木あるじ
  • 山形県在住。『怪談実話 震』で単著デビュー。「無惨百物語」「黒木魔奇録」「怪談売買録」「怪談実話傑作選 」などシリーズ多数。共著もあわせると著作は50冊以上。

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直球は返しにくい。遠回りのような近道

黒木あるじ先生による実話怪談の最新刊。

── 居酒屋で初対面の人に「怪談ありませんか?」と聞いても、「ありません」で終わっちゃいませんか?

まぁ、8割の方が「ない」と答えます。でも、そういう方が想像している怪談って、「血まみれの落ち武者が……」とか「生首が空を飛び……」みたいな派手なお話なんですよ。私のような怪談好きが欲しいのは、もっと「自分の身にも起こるかもしれない」と思わせるような、日常と非日常の境目にあるお話です。なので、怪談を聞き出すときは、まず自分が「たとえば、こういうお話です」と怪談を披露すると、相手の方も「そういう話でいいならば……」と乗ってくれたりします。

── 最初に道筋を引いてあげるんですね。

そうですね。あとは山間部に住む高齢者の方にお話を聞きに行くことも多いんですが、そういう方は、不思議な話を不思議な話として認識していない場合があるんですよ。そんなときは、村の歴史や、その方のライフヒストリーを粘り腰で1、2時間聞きます。そうすると、「鎮守の稲荷様を拝んでから行くと、夜道も狐火が照らしてくれた」みたいな話がポコッと出てきたりして、「ようやく出たか……」とうれしくなる(笑)。普通のコミュニケーションでもそうですけど、いきなり直球を投げたところで、相手は返しにくい。だから、相手のテンポに合わせて粘る。それが結局、遠回りのように見えて近道なんですよね。

── 正直、ベタな話が出てきて困ることはありませんか? 「心霊スポットに行ったら、車に変な手形がついた」とか……。

もちろんありますが、とにかく掘り下げます。すると、怪奇現象に至るまでの“周辺”で「おやっ?」という引っ掛かりが見つかる場合があります。そもそも心霊スポットに行った動機の部分で、「普段そんなことを全然言わないようなやつが、その日は妙に強引だった」とか少し変な要素が出てきたりするんですよ。それで「不思議ですね。後日、彼は何と言っていましたか?」と質問してみたら、「その後、なんか疎遠になっちゃったんだよね。風の便りで聞いたけど、なぜか看護師とばかり結婚しては〝こいつも違った〟と何度も離婚しているらしいけど」と返ってきたり……。

── その部分が加わるだけで、ベタな怪談が一気に変わりますね!

本人が怖さの芯と思っておらず、省いている部分に大切なディテールがあったりするんですよね。話を掘り下げていくうちに、むしろ、それこそが怖さの芯じゃないかというものが見つかる。そんな要素を引き出せたら、心の中でガッツポーズです。

── 怪談を集めるのって、気長さというか、“世間話力”みたいなものが重要なんですね。

「他人の話をおもしろがれるか」は重要だと思います。僕の知る限り、多くの怪談作家は、バカみたいに明るい性格をしていますよ。相手ものせて、自分も喋る。意外と話し好きな方が多い印象です。

アウトラインをなぞると芯が見えてくる

── 著書『怪談売買録 嗤い猿』(竹書房)の中で、「ブラッシュアップされた怪談よりも、なるべく原石の状態のものを拾いたい」と語られていましたね。先ほど「省いている部分に大切なディテールがあったりする」という発言が出ましたが、“原石”のほうがディテールを探りやすいということでしょうか?

そうですね。何度も話しているうちに、どうしても人間は「この部分はウケるから、もっと盛り上げよう」とか再構成しちゃうんですよ。となると、エピソードトークとしてはスマートなものになるけど、怪談としては味気ないものになってしまいかねません。

── ブラッシュアップされきったエピソードが出てきた場合、どのように掘り下げて、ゴツゴツした原石に戻していくのでしょうか?

相手の方にとって十八番のようになってしまっている話だと、ちょっとやそっとの質問を投げかけたところで、「そのボールは受け慣れています」みたいな感じでエピソードが揺るがないんですよね。そんなときは、体験者さん自身の家族構成や地元の風景など、一見、無関係な角度からボールを投げます。すると相手も予想していない角度から来たボールだから、「うちは田舎で、夜になると川の流れる音がずっと聞こえるんだよね。……そういえば、アレが我が家に来るときは川の音がしないなぁ」みたいな本人もその場で気づくような情報が出てくるんです。

── ところで、飲み屋で知り合った人から怪談を聞くような場合だと、「ここについて聞いておけばよかった」と後悔しても追加取材は難しいですよね。

「ここの部分を確認できなかったから芯が弱いな」と感じるものに関しては、いったんお蔵入りさせます。もしくは、世に出すにしても、「ここが気になるけど聞けずじまい」と正直に書きます。想像で書いた部分は、読者も目が肥えているので見抜きます。下手にパテを塗って埋め合わせしたように、本当のところとの境目が見えてしまいます。

── 聞き漏らしがないように、取材段階で注意していることはありますか?

その方がお話したエピソード全般に興味を持つと、自然と聞き漏らしはなくなると思います。たとえば、舞台のマンションひとつ取ってもいろいろじゃないですか。「満室ですか? それとも今のご時世、マンションも厳しくて空室が多いんですかね?」なんて世間話の流れで聞いて、「古いから爺さん婆さんが多いよ。半年にひとりは亡くなっているみたいで、集合ポストのガムテープ貼られたところが増えていくんだよ」みたいな話がひとつ出てくると、もう怪談的にはグッとくるシチュエーションじゃないですか。

── やはり、そこも気長さが大事。

「とにかく怖い話を引き出さなきゃ!」という成果主義で取材すると、意外とダメなんですよね。大学時代、民俗学のフィールドワークに参加した経験が今も活きているんだと思います。たとえば祭礼行事について取材するとき、その地域の食生活や一般的な家族構成など、あえて周辺にあるものを掘り下げていくんです。そうやってアウトラインをなぞるような聞き方をしていくと、「あのような生活スタイルだからこそ、祭りにはこういう意味があって、こういう形態を取っているんだな」のように意外と芯の部分がくっきり見えてきます。

── テーマに囚われすぎてはいけないんですね。

実は怪談って、怪奇現象そのものが怖いというより、クライマックスに向けてカタンカタン……と上っていく過程に不穏な要素をどれだけ的確に配置できるかが大切な気がします。「怖い話を聞かなきゃ!」と前のめりになるのではなく、素直にその場の会話を楽しむ姿勢でいたほうが、結果的に聞き漏らしは少なくなるし、いろいろなディテールを拾うことができて、怖い怪談を書くことができます。

いい怪談が多いのは「二親等」までの体験

── 取材していて、「これはウソだろう」とか「これは盛っているな」と感じることはありますか?

はい。なんだか話にリアリティが感じられなかったり、矛盾があったりするんですよ。でも僕がケンカ腰になっても仕方ないので、その場で指摘するようなことはありません。

── どういう相手のとき、「これはウソかもしれない」と警戒しますか?

「俺、怖い話いっぱい持ってるよ」とか「私、見えます」みたいな相手だと、ちょっと身構えます(笑)。やはり話し慣れている方、積極的に話したい方って、良くも悪くも盛り上げようとして盛っちゃいがちなんですよね。あと、お話を聞くときは、基本的に「二親等」までの体験談であるかは意識しています。話者本人、話者の家族、もしくは話者の知人までが体験したお話ということですね。「友達の友達」まで行っちゃうと遠いし、こちらが「その方から直接お話を伺いたい」と頼んでもアポイントを取りづらい。何より、創作である可能性が一気に高くなる印象です。

── 逆に「本人は怖がっているけど、それはただの気のせいじゃないのか?」と感じるお話はありませんか?

錯覚じゃないかと感じる話は、基本的に省きますが、取材の場で指摘しちゃうこともありますね。ただ、そのまま「錯覚じゃないですか?」と言うと角が立つので、「聞き間違いで片づけることもできるのに、なぜ錯覚じゃないと思ったんですか?」という聞き方をしています。そうすると「いや、だってその音、子どものときから誕生日のたびに聞こえるんだもの」なんて言われて、「最初からそれ言ってよ!」と思ったりもします(笑)。

── 怪談を集めやすい場所はありますか? タクシー運転手は怪談をたくさん持っているイメージですが……。

個人的な印象としては、タクシー運転手から怪談を聞ける打率は下がり続けている気がします。個人情報保護の意識が強くなったのと、キャリアの長い運転手さんが減ってきているんでしょうね。怪談を集めやすい場所で言うと、一番は親族の集まりです。

── 親族に怪談を聞く発想、全然ありませんでした!

過去に母校で怪談の書き方を教えていたんですが、冬休みの宿題は、「里帰りしたときに親戚に不思議な体験がないか聞いてみましょう」でした。初めは「そんなのないよ」と言われても、「知り合いが亡くなったとき、風もないのにカーテンが揺れた」のような虫の知らせ系のエピソードから入ると、打率がグンと上がるはずです。もしかすると自分のルーツに繋がるようなおもしろい話が出てくるかもしれませんし、ぜひトライしてみてください。

「実話」と「演出」の境界線

── 学生に怪談の書き方も教えているんですね。怪談を書き慣れていない人がやりがちな失敗はありますか?

これは自戒も込めてですが、テンプレにはめて書きがちなんですよね。たとえば、「声にならない叫びを上げた」とか「全身に鳥肌が立った」とか、手垢がついた言葉をつい使ってしまう。常套句を見た瞬間に、読者のテンションは下がってしまうんですよ。緊張と緩和が重要な怪談というジャンルにおいては、常套句の使い方には注意が必要です。そこに気をつけるだけで、ぐっと怖さが増すと思いますよ。

── たしかに、「血の気が引いた」のような怪談っぽい表現を使っても、逆になんだか「聞いたことのある話」感が出てしまう……。

そうなんですよ。学生がそういう表現を使ったとき、ちょいちょいと呼び出して、「君がひとり暮らしするアパートで、帰宅したらなぜか電気がついていて、ドアを開けた瞬間に電気が消えたという話だね。本当に声にならない叫びをあげたの?」と聞いてみると、やっぱり実際はそうじゃない。「本当はどうなったの?」と質問したら、「買ってきたコンビニ弁当をつい落としちゃって、怖いんだけど、頭の半分は『汁もれしたら嫌だな』って心配していました」って。そっちのほうが日常に即していて、なんだかおもしろいですよね。

── 黒木先生は実話怪談を書く中で、「ここまでは演出としてOK。これ以上は、実話じゃなくなる」という線引きをどのようにしていますか?

そこは作家さんによって考えが分かれる部分ですね。聞いたままを写実的に書く人もいますし、なかには、「Aさんから聞いた話とBさんから聞いた話の良いとこ取り」のようなアバンギャルドな手法を取る方もいます。どれが正解というのはありませんが、僕の場合は、体験者さんが語っていないことを加えるのはアウトにしています。伺ったお話をなぞった上で、改行するタイミングや、取材時に掘り下げたディテールをどのように配置するかなどで演出しています。

── 作家同士で、同じ体験者さんから同じ怪談を聞く可能性はゼロではありませんよね。そういう場合、どんなところで違いが出ると思いますか?

体験者さんに「この話はもう他でしないでください」とお願いするわけにはいきませんし、怪談作家同士でネタがかぶるのは、ある程度は仕方ありません。でも作家が100人いれば100通りの掘り下げ方があります。たとえばマンションを舞台にした怪談だと、僕は建物自体の雰囲気を掘りたくなるタイプなんですよ。でも他の人は「なんでいつも深夜に帰宅しているんですか? ブラック企業に勤めているんですか?」みたいに、体験者さん自身の生活に注目するかもしれない。もしくは、「下を向いてぼそぼそ話し、こちらと目を合わせようとしない」みたいな取材時の話しぶりに注目する人もいるでしょう。……以前、仲間内で「同じ人から取材して、『いっせーの、どん!』で書いてみよう」と企画したこともあるんですが、作家同士で優劣がつけられる事態になったら辛い気持ちになるのでボツになりました(笑)。

死を扱うジャンルだからこそ、意識すること

── 亡くなった方がいる事件や災害にまつわる怪談を聞くこともあると思います。注意していることはありますか?

僕は実家が東北なこともあって、震災絡みの怪談は特別慎重に扱うようにしています。もちろん、どの怪談でもプライバシーに配慮した書き方は心がけています。ただ、震災にまつわる怪談は、それにプラスして、「旅立った者」のエピソードとして、「残された者」に何を伝えられるかという観点を意識しています。だから読者さんには「なんだ、感動ものか。怖くないじゃないか」とお叱りを受けてしまうこともあるんですが、震災に関しては、スタンスが違うので。


これらは全て僕個人の趣味の話になるんですが、陰惨な事件にまつわる怪異は、あまり好きではありません。や、僕自身そういう話も書いてますし、そういった怪談を披露される方を否定するわけではありませんが、実話であることを担保するために現実の事件や被害者をつまびらかに語るようなものは、僕の求める怖さとはちょっと違うんですね。なので、僕の場合は、ゴシップ以上の怪談としての怖さがないと、あまり事件ものは扱いません。文章にする場合も、当事者に対する誹謗中傷につながりかねない内容だったり、「現場はここ!」のようなスキャンダラスな書き方にはならないように注意しています。

── 怪談は死を扱うジャンルだからこそ、作家ひとりひとりの姿勢が問われますね。

とはいえ、「怪談なんてやっておきながら、上品も下品もないだろう」というご意見だって正解です。下世話さの中に、ときに叙情性などが内包されたりするからこそ、怪談は豊かで面白いんだと思います。

── 実話怪談を集めていて怖くなる瞬間はありますか?

住まいも年齢も全く異なる方々から、3日連続で同じような話を聞いたときは驚きました。しかも火の玉のような普遍的なモチーフではなく、蝶々にまつわる話とか、オルゴールにまつわる話とかなんですよね。ある団地の怪談を聞いたら、半年後に別の体験者さんから同じ団地の同じ部屋のエピソードを聞いたこともあります。そういうとき、僕は「俺、死ぬんじゃね?」とテンションが上がって笑っちゃうんですよね。人ならざるものの話を聞き続けていると、何かに導かれているように感じる瞬間はあります。

── 定期的にお祓いに行くなど、気をつけていることはあるのでしょうか?

いや、とくにありません。僕の師匠筋に当たる作家の平山夢明先生は「それで稼がせてもらっているんだから、最悪、腕の1本くらいは仕方ない」ということを話していて、僕自身もその通りだなと。何かあったらあったで、いいじゃないか。ご飯を食べさせてもらっている以上、怪異を邪険にしてはいかん。それで1200文字くらいの原稿が書けるなら、〆切も近いし助かるじゃないかという心境です(笑)。

黒木あるじ先生の最新刊!

黒木あるじ先生によるプロレス小説!

狙われた対戦相手は表舞台から姿を消すという噂を持つ、謎のプロレスラー「葬儀屋」。彼こそが葬儀屋だと言われるプロレスラーの周囲で起こる様々な事件と、その真相とは……⁉︎


前作『掃除屋 プロレス始末伝』とあわせてどうぞ。

山形小説家・ライター講座開催中!

黒木あるじ先生も講師を務めることもある山形小説家・ライター講座。


1997年4月、直木賞作家である高橋義夫氏を講師として「小説家になろう講座」の名称でスタートしました。その後、山形市在住の文芸評論家池上冬樹氏が引き継いだ文学講座です。


●日時

毎月第4日曜日
午後2:00~(午後4:00終了予定)


●受講料
1回受講 一般2,000円、大学生1,000円、高校生以下無料


●場所
山形市 遊学館 3F 研修室
(山形県山形市緑町1丁目2-36)


ですが、2020年現在はオンライン講座にて開催中。山形にお住みでない方も参加しやすくなっています。

詳しくは、山形小説家・ライター講座のFANBOXをご覧ください。

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