「相手を褒める」が大事?クリエイター同士が和気あいあいと作品づくりをするには
インタビュー/原田イチボ@HEW
「鏡音リン・レン」の生誕14周年を記念して、「鏡音リン ♪ 鏡音レン Happy 14th Birthday マンガ・小説コンテスト」が行われました。小説部門で大賞に輝いたのは、OZさんの作品『二人の未来』です。こちらは音楽クリエイターのあ子さんによって楽曲化されました。

今まで何度もあ子さんとタッグを組んできたイラストレーターの葵山わさびさんが、今回もMVのイラストを担当しています。
プロでなくても合同誌をつくったり、小説の表紙を誰かにお願いしたりと、クリエイター同士一緒に作品作りをすることはよくあること。
二人のように、和気あいあいと一緒に良い作品を生み出すにはどうしたらいいのでしょうか。受賞作品の制作過程を通して、その秘訣を伺いました。
受賞作をプリントアウトし、「感情の流れ」を色分けした
── 受賞作を読んだときの感想を教えてください。

すごくリアルですよね。私たちの学生時代にもありえたかもしれない物語で、曲を作る上でのイメージがどんどん湧いてきました。

── ではまず、あ子さんにお話を聞かせてください。あ子さんの楽曲は、ストーリー性の高さも魅力です。今回は小説の楽曲化ということで、普段より苦労されたのでしょうか?

同じボカロを扱っていても、なんとなく「うちのリンちゃんとレンくんはこんな子たち」というイメージを持っているクリエイターさんが多いんじゃないかと思います。だから今回は「OZさんちのリンちゃん、レンくん」の二次創作をしているような感覚で楽しかったです。レンくんがリンちゃんを包み込みながら同じ目線で歩いているような雰囲気を意識しながら、曲を作りました。
── あ子さんはいつも白い紙にいろいろアイデアを書き込んで、ストーリーを決めたあとで歌詞やメロディを作ると聞きました。

登場人物の年齢、性別、身長、好きなものなどを思いつくまま紙に書き込んでいきます。歌詞に直接関係なさそうなプロフィールでも、いったん考えてみることによって、キャラの解像度が上がり、創作の足がかりになるんです。
── なるほど。今回も同じ作業をしましたか?

はい。OZさんの小説を全文プリントアウトして、登場人物がポジティブな感情を抱いているところは黄色のライン、ネガティブな感情を抱いているところは青色のライン、両方が混ざりあったような感情のところは緑色のラインを引いて、物語全体でどういう感情の流れになっているかを把握し、それをメロディに反映させたりしました。


あ子さんのメモ。作品の解釈が細かく書き込まれています
── 言葉ではない部分に着目したからこそ、小説に引っ張られすぎていない歌詞になっているんですね。

小説と歌詞で使っている言葉は変わったとしても、描かれている感情は同じです。「このときリンちゃんはうれしかっただろうな」など、OZさんの小説から自分が感じ取った思いを曲に落とし込んでいきました。
── 歌詞とメロディ、どちらが先に出来ましたか?

今回は歌詞から作りました。小説はリンちゃんの視点でずっと進んでいきますが、楽曲はリンちゃんとレンくんのツインボーカルで、パートも半々にしたかったので、そこの割り振りに時間がかかりました。
── あ子さんはアクセサリーをもとに楽曲を制作するなど、音楽以外のものを音楽にする企画を過去にも手がけていますね。

どんなものを題材にするにしても、音楽とコラボすることへの説得力を出したいと思っています。だから今回の曲で言うと、「章が変わるように 調が変わるように」というフレーズですね。せっかく小説とコラボするからには、小説✕音楽ならではの要素を盛り込みたいということで生まれた詩です。
── 次は葵山わさびさんにお話を聞かせてください。今回のMVのイラストは、どのように生まれたのでしょうか?

リンちゃんとレンくん、ふたりが同じ方向に向かって歩いている構図がまず思い浮かびました。同じポーズでも、それぞれの視線の向きの違いで感情を表現しています。また、「ひとりとひとり だからこそ」という歌詞を踏まえて、ひとりの立ち絵でも完成しているけど、ふたり並んだときに手が触れ合うようにしました。
── 楽曲をイラストで表現するとなると、キャラクターの服装や風景など、補わないといけない部分がいろいろ出てきますよね。どのように想像しましたか?

作業中は、あ子さんから受け取った曲をずっと流しています。音楽を流すと、自分がその曲の世界に本当にいるような感覚にだんだん近づいていって、自然と情景が目に浮かぶんです。私はイラストを描く上で、物語の季節や時間帯、温度感を意識するんですが、小説も音楽もそこのイメージにズレがなかったので、やりやすかったです。
打ち合わせは「お任せ」から「イメージ共有」へ
── あ子さんと葵山さんは、どのような経緯で一緒に創作をするようになったのでしょうか?

実は私たち、同じ高校出身で、同じ軽音楽部だったんですよ。
── あ子さんはその頃からボカロで楽曲制作を?

作曲はしていましたが、あくまでボカロは「聴き専」でした。でも高校を卒業後、何気なく初音ミクの体験版をダウンロードしてみたら、すっかりハマっちゃいました。自分も曲を投稿してみようと思い立ったんですが、じゃあMVはどうしようと……。私はいろいろなジャンルの曲を作りたいので、幅広い作風のイラストレーターさんと組みたかったんですよね。わさびさんは美術系の大学に進んでいたし、何より単純にファンだったので、「ボカロPをやりたいんだけど、MVのイラストを描いてくれない?」と頼んでみたら、ふたつ返事でOKしてくれました。
── 一緒に創作活動をするようになって、どのくらい経ちますか?

この春で丸5年になりますかね。
── この5年で、作品制作のやり方で変化した部分はありますか?

初めのうち、あ子さんは「好きに料理してほしい」みたいな感じだったんですけど、この頃はリクエストをくれるようになりました。

私はゼロから作るほうがやりやすいタイプだから、てっきりわさびさんもそうだと思い込んでいたんですが、「実は指定があるほうがやりやすい」と教えてくれました。それからは、「ここはこういうテーマで作りました」や「こういう色味がいいです」、「ここで映像を切り替えたいです」のようにイメージを共有するようにしています。
── リクエストがあるほうがイラストを描きやすいんですね。

もちろんお任せいただくのでも大丈夫なんですが、いったん仕上げたあとで、お互いのイメージに齟齬があったことが判明すると大変なので……。
── 「お任せ」であっても大きな齟齬が生じないように意識していたことはありますか?

たとえお任せでも、ある程度コンセプトの共有はしておくようにしています。ラフの時点で共有して、色塗りの前にも「私は青だと思うんですが大丈夫ですか?」のように確認していました。
チャットツールは気軽にアイデアを投げやすい
── あ子さんのMVのイラストのほかにも、葵山さんはいろんな案件をこなしていますが、どんなふうに発注されるのがやりやすいですか?

多くのクライアントさんは、商品などを効果的にアピールする手段としてイラストを発注されます。「本当にアピールしたいものは何か? それをどのように見せたいのか?」という核の部分を教えていただけると、こちらも考えが組み立てやすくて助かります。
── でも、どこまでがっちりイメージを伝えればいいものでしょうか? どうしても「あれこれ指示を出すとやりにくいのではないか」と遠慮してしまって……。

「がっちり指示」と「お任せ」のちょうどいいバランスはイラストレーター次第だと思いますが、私の場合は、「よくわからないけどイメージカラーは黄色」程度でも伝えてもらえるほうがありがたいです。イメージに近いイラストをいくつか添付していただけるのも参考になりますね。
── やり取りしやすいツールはありますか?

あ子さん相手だとLINEや電話がほとんどですが、ほかの案件だとメールやSlackを使うことも多いです。個人的にはチャットツールのほうがやりやすくはあります。どうしてもメールだと「お世話になっております。葵山です」のように少しかしこまってしまうから、「こういうアイデアはどうでしょう?」「いいですね。じゃあ、こうしてみましょうか?」みたいにアイデアをポンポン投げ合う感じになるのは難しいんですよね。
思ったことを言えない関係は、楽しさ100%でやれない
── おふたりとも創作に真剣だからこそ、やりとりがギスギスしてくる場面はありませんか……!?

ないかなぁ……。もともと友達というのは大きいかもしれません。でも友達同士で話しているときに「Aの場所に遊びに行きたい」と「Bの場所に遊びに行きたい」で意見がすれ違ったとしても、別にそこまでギスギスしませんよね。それは、「一緒に楽しくなるためのやり取り」という共通認識がベースにあるからだと思うんです。ふたりで作品づくりをするのは楽しいし、良いものができたら、もっと楽しい。「せっかく楽しいことをしているんだから、テンション上げてハッピーにやっていこうよ!」みたいな気持ちをお互い自然と持てているのかな。
── じゃあ創作のときは、お互い商業クリエイターとしてビジネスモードに切り替えるわけではなく?


「お世話になっております。あ子です」みたいなやつね。ここ数年ずっとやってくるんですよ(笑)。

ブームが冷めなくて……(笑)。
── 仲良し! 相手の提示してきたものが「ちょっと違うな」と感じたときはどうしますか? 普通なら一番ピリッとしそうな瞬間ですが……。

「ちょっと違うかも」とは正直に言います。思ったことを言えない関係だったら、逆に楽しさ100%でやれない気がします。

相手を褒める姿勢が、長続きの秘訣?
── あ子さんが葵山さんにイラストを依頼する時点で、もう楽曲は完成しているのでしょうか?

まだデモだったり、一番までしか出来ていない段階で送っています。それでわさびさんが描いてくれたイラストを見て、「そういう色味を使うなら、曲のほうもこんな要素を足してみよう」と楽曲に手を加えることもあります。

私が「早く聴きたい! 一番だけでもいいから!」って、ねだっちゃうんです(笑)。

ねだられるとやりがいがありますよ!
── 相手の「ここが一緒に仕事しやすい!」と感じるポイントはどこですか?

ラフとかを投げたとき、「最高! 天才! 特にここが良い!」と何行にもわたって褒めてくれるんですよ。すごくうれしいし、モチベーションが上がります。

全く同じことをわさびさんに対して感じています! イラストを依頼するとき、「描く描く描く! 描きます!」って食い気味に言ってくれるんですよ(笑)。あとは私が「どっちの案がいいかな?」と聞いたとき、「どっちもいいよ」ではなく、しっかり自分の意見を返してくれるので、一緒に作品作りをしている感覚が得られます。
── 一緒に5年やってきて衝突した瞬間はありますか?

(思い出そうとする)ない……?

ないよね……?

ちょっとぶつかるようなことがあっても翌日に持ち越さないので、衝突らしい衝突はなかった気がします。なんといっても、わさびさんが優しいので(笑)。

逆、逆!
── あ子さんも葵山さんも相手をすごく褒めるので、それが長続きの秘訣なんでしょうね。最後に、このタッグで今後やりたいことを教えてください。

わさびさんはTRPG好きで、自分でもシナリオを書いているんですよ。だから、TRPGと曲とイラストのコラボができたらいいなぁと考えています。これからも時に音楽やイラストの枠を飛び越えながら、楽しいことをやっていくつもりです。