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  • 漫画家は人に見えるよう努力すべし!『幸せカナコの殺し屋生活』の戦略
インタビュー
2019.06.09

漫画家は人に見えるよう努力すべし!『幸せカナコの殺し屋生活』の戦略

  • Writer interview

さる2019年5月12日、pixivでも多くのファンを抱える『徒然チルドレン』(講談社)でおなじみの若林稔弥先生の新作『幸せカナコの殺し屋生活』(星海社)の単行本が発売されました。本作はTwitterに第1話が投稿されるや一気にバズった話題作ですが、単行本になるまでファンコミュニティ「pixivFANBOX」の運営を中心にさまざまな挑戦をされてきたとのこと。

→インタビュー前編はコチラ!

後編となる今回は、若林先生のpixivFANBOX活用法、漫画家の生存戦略についておうかがいしました。2000人近い支援者を集めている若林先生のお話は、これから漫画家になりたいという方にとっても必見の内容です!

『幸せカナコの殺し屋生活』(星海社)
『幸せカナコの殺し屋生活』(星海社)

(pixivコミック)


(Amazon)

若林稔弥
  • 若林稔弥
  • 漫画家。代表作に『徒然チルドレン』(講談社)『僕はお姫様になれない』(アスキー・メディアワークス)『恋するみちるお嬢様』(スクウェア・エニックス)等がある。現在『幸せカナコの殺し屋生活』(星海社)が大好評連載中!

  • pixiv
    pixivFANBOX
    Twitter
    『幸せカナコの殺し屋生活』特設サイト

努力は人に見えるようにしろ!

──本当に多角的にいろいろ挑戦されつつ、今年の1月くらいから更新ペースも上がって。

若林稔弥

その頃には単行本の発売が決まって、それに向けた作業で超急いでました(笑)。単行本にはFANBOXで先行掲載した16話に加えて、描き下ろしのおまけ4話で、全部で20話くらいが入っています。売り方もいろいろ考えていかないといけない。


『徒然』のときは2年くらい経って単行本が出る頃にはだいぶ落ち着いていたんですが、その当時より読者の期待のサイクルが早いと思うので、『カナコ』がバズったとき、この熱が続くのは半年くらいかなって計算して。だから、まだ熱があるうちに出版社と組んで出そうと。そのほうが、単行本を見て、新しい支援者も増えるんじゃないかなと。

──FANBOXの有料プランに入ると『カナコ』がどこよりも早く読める、いわゆる「先読み課金」に近い形態を採用されていて、それがとてもうまく機能している印象があります。

若林稔弥
商業の単行本にしないでずっとFANBOXでやっていくことも、ちょっと考えました。でも、どこかで天井にぶつかって、いろんなメディア展開を考えるフェーズになったときに、結局は出版社と手を組んだほうが楽なのは目に見えている。個人がひとりでメディアになって全部やっていくというのは、今のところある程度の限界はあるかなと思います。


あと、自分的にひとつ問題があって。マンガアプリでは先読み課金ってだいぶメジャーになりましたけど、そこではエロ系が最強で、次が恋愛とかバイオレンスとか、引きが強くて次が読みたくなる系で、そういうのが売れるとなると、僕はもう何もできなくなるんじゃないかと(笑)。だから、今後そういうマンガアプリの時代が本格的に来るとしたら、人はどうしたら課金したくなるんだろうって試しているみたいなところはありますね。

若林稔弥
自分がFANBOXを始めてから、この5月で1年になりますけど、継続するのが大変ですね。特に、途中で抜ける方が結構いらっしゃる。仮説ですけど、自分でほかの人を支援してみて思うのは、ずっと同じことを続けていると飽きるからなんじゃないかなと。FANBOXって本来的にそういうもので、仕方ないんですけど。じゃあ飽きさせないためにはどうしたらいいのか。そんなことをずっと考えて。


ほかの方のFANBOXで、何か月か支援を継続すると特典がありますとか、支援額に応じて特典がありますとかを見て、自分もやろうかなとちょっと考えたこともあります。ただ、これをやりはじめると、準備のためにかかる手間も結構だし、特典で引き止めるというのも、自分は漫画家なのに本末転倒じゃないかなと。


もちろん、単純にお金がほしいなら、それでいいなと思います。でも、元々は100円でもいいからお金を払ってみてくれる人がたくさんいて、僕が本当に「お願い!」っていうときに何かアクションを起こしてくれるサポーターが集まるとうれしいなってことなんですよね。たとえば「カナコ」の単行本が出たときに、一斉にアマゾンに高評価のレビューを書いてくれるとか(笑)。

──「元気玉」作戦ですね(笑)。

若林稔弥
いちばん健康的なのは「この作家を応援したい」っていう気持ちを継続して持ってもらうことだなって。じゃあどうしたら……自分にはそんなカリスマ性はないですし。逆に僕から見て『東京喰種』の石田スイ先生はカリスマ性あるよなあって(笑)。結局は、そこで何かしらがんばっている姿が見えるのがいいんだろうなって。

若林稔弥

こういうパトロン系のサービスで支援が集まりやすいのって、アイドル系とエロ系だなと。アイドルは応援しやすいし、エロ系は欲望に忠実ってことで、それはわかる。ファンの応援したい気持ちをどうやったら盛り上げられるのか。作家にできるのは何なのか。


そこで最初に考えたのは、Twitterとかでもよく見かけますが「連載を続けるためにみんなお願いします!」という力を貸してくれという方向。これはこれで有効だけど、そのうち飽きられそうだし健康によくない。

──あまりファンにお願いをしすぎるとリスクがありますよね。

若林稔弥
そこで、何かしら常に新しいことに挑戦していれば、応援したくなるのではと、なんとなく考えて。仕事には直接的にはつながらない思いつきのネームをFANBOXに上げるようにしたり。それと並行して、今だったら「カナコ」ですけど、メインとなるコンテンツを育てる作業をしたり。あと、いま自分はこんなことを考えているけど……というアイデア募集。


ただ、ずっとがんばってるだけだと、それも飽きてしまう。そのうちに「カナコ」の単行本が出ますとか、みんなで成果を分かち合える祭があると、応援しやすいんじゃないか、とか。まあ、努力は人に見えるようにしたほうがいいなというのが、ここ最近にたどり着いた方針ですね(笑)。

──ファン視点なんですが、若林先生はものすごくポジティブで計画的で常に仕事をされている印象で、それはそれでいいんですが、逆に、たまにはやる気がない、ダメな姿を見せるのもアリなんじゃないかなって思ったりしました。

若林稔弥

あ〜なるほど。あえてスキを見せるんですね(笑)。

──「きょうは遊ぶぞ!」みたいなのはないんでしょうか。

若林稔弥
なんか常に頭の片隅に仕事があって。娘とおままごとをしながら次のネームのことを考えたり(笑)。そういうのよくないので、意識して休日を作るようにはしてます。

──若林先生は、単純にお仕事をしている状態が好きでなんでしょうか。それとも、マンガを描くのが好きで結果的にお仕事になってしまっているんでしょうか。

若林稔弥

うーん、両面ありますね。新しいアイデアを思いついて、よし今度ネームにしようと思っていて、先にやらなきゃいけない仕事がある場合ってありますよね。そのアイデアを頭の中にとどめておくのがストレスなんですよ。すぐ形にしてスッキリしたい。だから「早く休日終わらないかな」ってことがあります(笑)。仕事をしている状態のほうが普通なので、ワーカホリック的なところはあるかもしれないですね。


子供が早く普通の映画を楽しめる年齢になってほしいですね。僕は映画を一本見て寝たいんです。映画を見ている間は、まあまあ頭を空っぽにして休める。けど、アイツは『アンパンマン』しか見たくないんです(笑)。同じ話を5〜6回見るし。

『カナコ』と若林先生の今後の展開は?

──現状のご自身としての手応えはどうなんでしょう?

若林稔弥
それがね、わかんないんですよ(笑)。最初にバズったときは「やっぱり俺は天才だ」とか思いましたけど、「売れなそう」と言われて、確かに一理あると。だから検証や実績づくりをしてみよう思って同人誌にしてコミティアで出したら500部が速攻で売れて。ひさしぶりのコミティアでこれは相当いいぞと。


スタンプもLINEさんの方から依頼が来て、結構売れてランキング1位も取って、これは来たぞと。でも調子が良いのはそのくらいまでで、Webの反響の数字も少しずつ減っていくし、単行本前の買い控えみたいなのも出てくるし、結局みんな単行本は買ってくれるのか(※インタビューは2019年4月末時点のものです)。


本当にめちゃくちゃナーバスですよ! なんなら昨日は占いに行きましたからね(笑)。「いい流れは来てます。でも本人の自信がとにかくないです」と。

──なるほど、当たっている(笑)。

若林稔弥
「5月12日までに、SNSで何かを批判して炎上してしまいそう」って。リアルですね!

──すごい。単行本の発売日をドンピシャで(笑)。

若林稔弥
きょうもニュースになっていたことでツイートしようかなと思ったけど、踏みとどまりました。

──世間の評価とは別に、作品そのものの手応えや今後については?

若林稔弥
なんとなくの展開は考えています。『カナコ』は殺人っていうタブーを犯す中で、自分の居場所を見つけてしまうというアンバランスさが大事だと思っているんですが……変な話、この作品は当初は20代の新社会人女性に向けて描いてるつもりだったんですけど、描いているうちに、だんだん自分の娘に描いてる感が出てきたんですよね。


女性に降りかかるいろんな酷いニュースとかを見ていると、うちの子も20年後もしかしたらブラック企業に就職してしまうかもしれない。そのときに、自分を大事にしてほしい、なりたい自分になってほしい、みたいな。

カナコは自分のアイデンティティが見つかって楽しくなってるんですけど、描いていると、なぜかやってることが幼児化していくんです。ニチアサ見たり(笑)。その中で成長していって、きっとそのうち大人としての自分を見つめ直すターンが来ると思っています。

──もう次の作品について考えていらっしゃったりするんでしょうか。

若林稔弥
今後も並行してFANBOXで、さらに別の作品のネームを出していくことを考えています。けど、恐れているのは、ほかにもたくさん娯楽がある中で、FANBOXの支援って途中で切られやすいんじゃないかなと。自分は既婚で子持ちで30代ですから、アイドル的な人気とかないですし(笑)。だから特典をつけて高額プランみたいな運用じゃなく、100円でいいから応援してほしいって運用にしている部分もあります。


もし、あずまきよひこ先生(『あずまんが大王』『よつばと!』)がFANBOXを始めたら、自分なら、特に何も更新がなくても1万円払うだろうなって。更新してくれるとしても、身の回りの日常の写真とかで十分で、素晴らしい作品の方に力を注いでほしい。そういうのが王道かなって思うんですよね。

──若林先生はご自身ではどんな方を支援されていますか?

若林稔弥

ハトポポコさんは、単純にマンガを描いてほしくて支援していますね。宮本桂さんは鳥の写真をずっとアップされている方なんですが、将来バードウォッチングマンガを描きたくて、これは「僕が支援しないと!」っていう使命感があります。あとヒロユキ先生も……まあこれは仕方なく一応って感じで(笑)。


できれば模造クリスタル先生にFANBOXをやってほしいんですけど。僕はオンリーワンな人にあこがれがあって。自分もそうなりたいから、そういう人を支援したいみたいなところがあります。ああいうタイプの方こそFANBOXに向いてるって思うんですが、やる気があるかどうかは別ですからねえ。

これから漫画家を目指すなら FANBOXでたくさん失敗しろ!

──これから漫画家を目指す方へのアドバイスってありますでしょうか?

若林稔弥

いま面倒を見ている新人さんに、まさに早くFANBOXをやったほうがいいって言ってるんです。年齢はそんなに若くなくて、働きながらマンガを描いている。伸びしろはあるし、描き続けていればそのうちイケると思ってる。


でも問題があって。ネームを週イチで見てるんですけど、同じネームをずっと1か月くらい直してるんです。ネームってどんなに直しても第二稿目以降はそんなに変わらないのに、締切がないとずっと直しちゃうタイプなんですね。

一度、マンガがTwitterでバズったことがあって、確か1万RTくらいになったと思うんですが、それから描くことに慎重になってるように見えるんです。成功すると失敗が恐くなることもあると思います。そうなるとフォロワーも増えない、マンガも見てもらえない、承認欲求も満たされない、そしてモチベーションが下がってくる。

──悪循環ですね。

若林稔弥
これは漫画家には本当によく起こることなんです。だからFANBOXなんだと。完成していなくても全然いい。カンパの箱を用意して、100円でも500円でも払ってくれる人が1人でもいたら、その人のためにマンガを描けばいい。それでモチベーションになるんです。

──ストリートミュージシャンみたいな。

若林稔弥

FANBOXを見るのは基本的にファンなので、失敗してもみんなやさしい。そこでたくさんネームを描いて失敗して、とにかく手を動かす習慣をつけないと自滅しちゃいます。未熟かもしれないけれど、それはそれでファンが応援したくなる武器でもある。


プランは考えるのが大変なら、とりあえず同じ内容で500円と1万円だけ置いておけばいいんです(笑)。何かお返しをしなきゃというプレッシャーでFANBOXをやめてしまう気持ちもわかるんですけど、ファンにとっては本末転倒な話で。FANBOXはほかのパトロン系サービスと違って、あまり見返りを求められていない。一番の見返りは新しい作品を作ることであって、その前提がわかっていればクリアできる問題だと思います。


TwitterとかpixivとかのSNSには完成品しかアップしたくないならそれでいいけど、途中のものはFANBOXにどんどん出す。バズったこともない完全な新人なら、1人でも支援してくれたらいい方かもしれないですが、それはもうそういうものだと割り切って、がんばってみてほしいですね。

──それでは最後に読者のみなさんにメッセージを。

若林稔弥
『幸せカナコの殺し屋生活』最新話もあるので、ぜひ僕のFANBOXを支援していただいて(笑)。作家が挑戦している姿や成長を見守ってもらえたらと思います。もちろん『幸せカナコの殺し屋生活』のコミックスも絶賛発売中です。こちらは星海社の太田さんがつけたいと力説したシールがついてきますので(笑)。電子版も星海社自慢の業界最高品質らしいので、両方買って、紙の方は親戚や友達に布教用に。ぜひお買い求めください!

──ありがとうございました!

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