絶版状態だった『堕天作戦』が大躍進! 逆転劇の裏側とは?

取材・文/坂本寛(ピクシブ)
WebマンガNo.1をユーザー投票によって決定する「WEBマンガ総選挙2019」。2017年のスタートから3回目の開催となった今回、山本章一『堕天作戦』(小学館)に、Webマンガの強さを見せつけた大逆転のドラマがありました。
実はこの『堕天作戦』は、投票開始の時点で発売済みのコミックス5巻までがすべて「事実上の絶版状態」。最新5巻はそもそも紙の本の発売予定もなく電子版のみの販売だったこともあり、読者からは連載の継続をあやぶむ心配の声が多く上がっていました。
そうした逆境の中、作中にもある「目指しましょう、星!」を合言葉に『堕天作戦』は熱烈な支持を受け、見事第3位を獲得。第5巻は紙の単行本が発売され、第1〜4巻も大量重版という大戦果を得ました。
今回は、これまであまり語られていなかった『堕天作戦』の制作の裏側について、作者である山本章一先生と担当編集である成田卓哉さんにインタビューを行いました。少し長めですが必見の内容ですので、ぜひ最後までご覧ください!
鉛筆描きで優勝したデビュー作
── 「WEBマンガ総選挙2019」第3位おめでとうございます。まず今のお気持ちを。

担当の成田です。応援してくれたみなさまには頭が上がりません。マンガ業界は読者がいないと成立しない世界なので、まず読んでもらえるだけでうれしいですし、さらに応援しようと思ってもらえたのが何より幸せです。また、山本先生の不断の努力が結実したものでもあるので、山本先生にはおめでとうございますと伝えても伝えきれない気持ちです。

山本です。ただただ、うれしい気持ちでいっぱいです。多くの方々の支えが本当にありがたいです。読者のみなさんにも、成田さんにも、もう何とお礼を言えばよいのやら。
── 本当におめでとうございます。それでは、まず『堕天作戦』の連載開始までのお話から。山本先生は小さいころからマンガ家を目指されていたんでしょうか?

マンガは好きだったのですが、マンガ家になろうというか、なれるとは思っていませんでした。「自分だったらこういう話がいいな」というのを普通に趣味として描いていました。それでたまに誰かに読んでもらえたらいいなぁ、と。
── 『堕天作戦』は今どきでは珍しいくらい本格的なSFやダークファンタジーの要素がたっぷり詰まっていますが、やはり元々そういうジャンルがお好きなんでしょうか?

SFは大好きです。学生のころはハヤカワのSF文庫を読み漁っていました。お気に入りはラリー・ニーヴンのノウンスペースシリーズ。傾向としてはスターウォーズよりはスタートレックです。
── なるほど! なんとなくわかります(笑)。ちなみに山本先生は『堕天作戦』の前から、ネット上のマンガ賞などにネームを投稿されていたかと思います。その当時の、デビュー前のお話をおうかがいできればと。

── 私はその当時から個人的にネットで拝見していましたが、むしろ鉛筆なのに全部おもしろくて「すごい天才だ」と思っていました! そこから『堕天作戦』のキャラクターやストーリーが生まれたきっかけは?

── おおお『堕天作戦』最初の「虚空処刑」のエピソードですね……!? あれは初めて読んだとき本当に震えました! また、その虚空処刑編が「裏サンデー第3回連載投稿トーナメント」(2014年)にて優勝、デビューのきっかけとなったんですよね。


── なるほど、そういえばトーナメントも大逆転でしたよね。担当の成田さんが初めて作品を見たときの感想や、山本先生と出会ったときの印象は。

── めちゃくちゃ気になります(笑)。

実は当時、山本先生は前担当と話し合い、そのとき描いていたネーム「破顔大笑 Part4」で『堕天作戦』は最終回ということになっていて、とても驚きました。GWが明けて急いで編集長に「(紙媒体では出なくても)『堕天作戦』って連載を続けても大丈夫ですか?」と確認してOKをもらえたので、山本先生にもっと続けられますとお伝えしました。自分としても『堕天作戦』は転職前から知っていて好きな作品だったので、続けられて良かったと思いました。
── えええ……初めてうかがうお話で衝撃です。破顔大笑編ってコミックスだと第4巻のラストですよね。つまり一度そこで『堕天作戦』は終わっていたかもしれないと。ファンのひとりとして、おそろしいというか、よかったというか……。
ネームが肝! 細かな調整が行われたキャラクターたち
── 気を取り直してお話を少し戻しますが、連載が始まってどうだったか、想像より大変だったこと、うれしかったことなど。


── 普段どんな感じで制作されているのかも、おうかがいしたいです。

── ペン入れまでのネーム部分が普通よりお時間かかっているんですね。『堕天作戦』は極めて独特な世界観でありながら、細かい部分まで練りに練り込まれて設定されているがゆえのリアリティを感じます。

(設定は)けっこう調整していると思います。今回「WEBマンガ総選挙2019」での受賞があったことで、また変わるかもしれません。

── これまでのストーリーは事前の想定通りですか? それとも変わっていっているのでしょうか。

── おおお……現在の展開もすごくおもしろいんですが、それらも見たかったですね……。そもそも『堕天作戦』にはアンダー、レコベル、ピロなど、すごく生き生きとしたキャラクターがたくさん出てきますが、モデルがいたりするんでしょうか?

物語の必要に応じてキャラを設定するので、基本的に決まったモデルはいませんが、アマチのいやらしい目つきは作者に似ています。困るのが、ある程度描いた後で「これアニメの○○に似てないか」などと気付くことです。ショックです。

これがいやらしい目つきのアマチだ!
── お気に入りのキャラは? 描きやすいキャラ、描きにくいキャラはいますか?


自分のお気に入りはボルカかな……。コミックスの第3巻に収録されている「修羅胎動」は何度読み返しても泣いてしまいます。あと、やっぱりコサイタスですね。今年やっていた「地獄献上」は凄いですよ! ぜひ読んで連載に追いついてきてほしいです。

コミックス第3巻の修羅胎動編で大活躍するボルカ。
次から次へと魅力的なキャラクターが登場する。
『堕天作戦』をあきらめないでよかった
── そして、どうしてもおうかがいするのが少し失礼なお話になってはしまうのですが、当初は第5巻が電子版だけしか発売されなかったということで、心配をするファンの声は多かったかと思います。実際のところ、山本先生と編集部の間では、どのようなお話が背景にあったのでしょうか。

マンガワン&裏サンデーって、コミックス発売前に告知のPRを掲載するのですが、自分で決めておきながら、読者には関係のないうらみごとみたいなのを書きすぎてしまい、第5巻の電子書籍の発売1週間前に掲載予定だったのに校了直前でストップがかかって大きく作り直しました。結果、発売の告知は発売当日に掲載することになってしまいました……。いつか笑い話にできるように、あの出来事はなんだったんだろうなって話せるように、これからも盛り上げがんばります!

── 第5巻の電子版の発売と同時に『堕天作戦』のTwitterアカウントができましたよね。あそこで公式が音頭を取っていたことも、選挙活動的には大きかったのではと思いました。

また、アカウント立ち上げに際して、山本先生にもお手数ながらイラストを描き下ろしていただいたり、コメントや過去作品の掲載許可をいただいて、ご協力いただけたのも大きかったなと思います。
── そこで今回の「WEBマンガ総選挙2019」についてですが、まずノミネートされたとき、どのようにお感じになりましたか?

ノミネート前からTwitterやマンガワンのコメント欄で多くのファンの方が動いているのは知っておりました。ノミネートされたときは、ホントにもう、感謝しかありませんでした。また、このチャンスを逃してはいけないとも感じ、その日からTwitterアカウントも毎日色んな切り口で更新するなど、手を変え品を変えやりました。

── 結果的に全体の傾向としては女性向け作品が強めというのはありますよね。とはいえ少しづつ応援の空気ができていたように見受けましたが、何か追い風を感じた瞬間はありましたか?

追い風を感じたのは、1番はノミネートされた瞬間というか、ノミネートされたことに関するファンのみなさんのツイートやコメントでの反応でした。また、投票期間にした毎日のツイートへの反応や、堕天作戦でエゴサして出てくるファンのみなさんのコメントを見ていて、どんどん追い風が大きくなっているのを感じました。

── うれしかったコメントや印象深かったツイートなどは?


── 中間発表で第3位というのが発表されたとき、反応がとても大きかったですよね。


── そして最終結果を見たご感想は?


成田さんごめんなさい、驚きの結果です。

── そして、これからのお話です。現在連載中の『堕天作戦』は、これまで積み重ねられた伏線が回収されていき、もうはちゃめちゃなくらい盛り上がっています。


── もしかして、これってクライマックスに近づいている? という感じがあります。いまストーリー全体の何割くらいなのでしょうか。


── これからも楽しみにしています! そして最後に、応援してくれた読者のみなさん、これから読まれる方、またpixivにマンガを投稿しているプロを目指す方へのメッセージをお願いします。

『堕天作戦』を応援してくれているみなさん。本当にありがとうございます。みなさんのおかげでこのような光栄な賞を受賞することができました。これからも恩返しできるように。みなさんに応援して良かったと思えるように盛り上げてまいります。
また、まだ『堕天作戦』を読んだことのないみなさま。これからゼロベースで『堕天作戦』を読めるのは個人的に、とてもとてもとても羨ましいです! しかも5巻分もまとめて読めてしまう! こんなに幸運なことはないと思います。ぜひ騙されたと思って読んでみてください!
そして、プロを目指している方へ、『堕天作戦』は「人間を描く」ことに卓出した作品です。ぜひ『堕天作戦』を研究して、ご自身の作品に活かしてみてください。

応援してくださるみなさんには、好きなように、思うように楽しんでいただければと思っています。千差万別の反応は、作者にとって大きな刺激です。
そしてこれから読まれるみなさん、『堕天作戦』は作者の山本章一が、どうすれば(自分好みに)面白くなるかを考えながら描いているマンガです。堅めのSFテイストが好きなら特におススメです。絵がヘタ? 話難しい? 大丈夫、そのうち慣れるしチンプンカンプンでも何とかなる! そして物理本の表紙は厨二病にはたまらないぞ!
プロを目指すみなさん、私は本当にたまたまでマンガ家になりました。あのとき投稿しなかったら、今でもネームだけを描いていたと思います。たくさん数を描いて、積極的に投稿してください。定期的に量産することに慣れておかないと、私みたいに苦労します。大変ですよ? 二徹三徹当たり前とかになるよ?(笑)これからもたくさんの面白いマンガに出会えますように。
── ありがとうございました!
山本先生が『堕天作戦』以前に投稿されたネームの1本「燃える追い人」。この時点ですでに現在の作風にも通じるものが感じられます。